いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】ロスト・フロア


大型案件を抱えるやり手弁護士のセバスティアンは、重要な証言者の公聴会を控えたその日も、別居中の妻の家から2人のわが子ルナ・ルカの通学の送り迎えを欠かさなかった。
7階の妻の部屋から出る際のほんの些細な楽しみである、エレベーターで下るセバスティアンと階段で下りる子どもたちの競争の際に事件が起きる。いくら待っても、エントランスのセバスチャンのもとに子どもたちは降りてこないのだ……。


アルゼンチン・ブエノスアイレスの市街地に建つタワー型マンションを舞台にしたサスペンス。原題の“Séptimo”とは、英語でいうSeventhのような意味合いで、つまり7階を指していると思われる。


おそらく現地で撮影されていて、アールデコ様式のマンションの手すり、シャッター式のエレベーターなんかはいい雰囲気だし、いちおうアルゼンチン・スペイン製作とはなっている。
だが、興味深いのはこの映画がきわめてハリウッド式に洗練されたスタイリッシュな一本になっているということ。主人公の動機が最愛の子どもというのもおそらくどの国の国民が観てもわかりやすいし、隙間なく変わる展開には飽きが来ない。
文化的なニオイが脱臭され、きわめてユニバーサルな作りになっている。


実はどこかに隠れていた……すでに学校に行った……など、考えうる楽観的な可能性が徐々に潰えていくうちに、セバスティアンの中で膨らんでいく不安。そして、最後に残るのが残酷にして最悪な可能性――誘拐だ。

妻と合流し、階下の住人でもある警視の協力を仰ぎ、本格的な捜査を開始するセバスティアンだったが、わが子の痕跡はどこにも見当たらない。焦るあまり、他の住民との軋轢をも生じてしまう。そしてついに、犯人側から電話がかかってくる。
緊迫した状況設定、盛り上げ方が上手く、子どもたちはどこに行ったのか、そして無事なのか、ということへの期待値は結構あがる。


子どもたちがどこで誰に誘拐されたのか、という意味での真相については、どちらかというと「そんなことかよ↓↓↓」という気持ちが強かった。犯人の側についてツッコむならば、そんな危ない橋をわたってまで今すぐにでも叶えるべきことなのか、ということについては首を傾げざるを得ない。
つまり犯罪というリスクと、動機というリターンが釣り合っていないのだ。


ただそれ以上に、真相判明後の展開が味わい深く、セバスティアンと“犯人”の何とも言えない、表面上は和やかに取り繕う“再会”については見応えがあった。手堅い一作にまとまっている。