
政局を決める大事な国政選挙の日なのに申し訳ない。今日は全然関係ないある映画について語りたい。
それは、『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフがネオナチに潜入するFBI捜査官を演じた映画『アンダーカバー』(2016)だ。
ここから、都合上、『アンダーカバー』のストーリーの核心部分に触れていく。
ラドクリフくん演じるのは、優秀なFBI捜査官ネイト(ラドクリフ)。彼にある特命が下る。白人至上主義者から絶大な支持を得る保守系のネットラジオのパーソナリティ、ダラス・ウルフが、番組上で「大きな計画がある」と発言。FBI当局はワシントンDCで近いうちに大規模なテロがあると予測。ネイトくんに、ネオナチに潜入し、ウルフへ接近して情報をつかむよう命じる。
ここから、ラドクリフ演じるネイトは、マルフォイもびっくりの丸刈りのイカつい風貌で身を固め、偽の経歴を手に入れ、ネオナチのグループに接触する潜入捜査を開始する。
正体がバレたらただじゃ済まない。命の危険だってある。そんなハラハラドキドキが手に汗握る前半だが、ネイトはグループで次第に信頼を勝ち得ていき、ついにウルフ本人との接触に成功。「資金援助をしたい」と巧みに誘い、ウルフの自宅を訪問する絶好の機会を得る。
ついにやった! ネイトと同様に観客も固唾をのんで見守る緊迫のシーンだ。…ところが、どうもネイトとウルフの話は噛み合わない。それもそのはず、ウルフはそんな“計画”、何も知らなかった。ネイトがそんなはずはないと迫ると、ウルフはあろうことか「イカれた奴(=ネイト)に脅されている」とFBIに通報してしまった! ウルフがラジオ番組をやっている目的には、何の思想上の信念もなかった。彼はお金目当てであり、さらに、そもそも保守主義者でもなんでもない。ウルフは自分のことを「エンターティナー」だと自称する。彼は狂信的な保守主義者でもなんでもなく、リスナーに「ウケがいいこと」を敏感に感じ取り、しゃべっていただけだったのだ。
ウルフという男はこのあとストーリーの核心には全くタッチしないどころが、一切登場しなくなるが、彼の人となりが作中で明かされたとき、俺には「これはありそうな話だ」と強く感じられた。
差別心を抱くこと自体は仕方ないものだ。自分のホームグラウンドに見知らぬ者が入ってきて、その上人数が多かったとき、何をされたわけではなくても、「なんか嫌だな」と心に思ってしまう気持ち。論理的な正当性はないが、自分の縄張りを他者に脅かされてしまうことへの反発は、動物的、原初的な反応であり、仕方ない。
問題は、その「なんか嫌」という感情に、言葉と行動を与えてしまうことだ。ウルフのような人間は一定数いて、彼らは「この人たちはこういうことを言ってほしいんだろうな」という、名もなき者たちの「なんか嫌」の感情を敏感に察知し、デマや誇張、ウソで塗り固めたかりそめの「正しさ」によって言語化、行動化していく。
かくして、「なんか嫌」でも「表に出すのは憚れる」はずだった差別心は、免罪符を得て、いつの間にか大手を振って出歩くことが許されることになる。
俺は「なんか嫌」を抱える有象無象のフォロワーより、その「なんか嫌」を巧妙に言語化して、共感を得て、支持を集めるウルフのようなヤツのほうが、はっきり言って害悪に思えるし、政治政党という影響力のある存在ならば、なおさらだ。
ところで、選挙中、散々撒き散らしていた差別的、排外的な言葉に対して「あれは選挙の間のキャッチコピーだ」などとエクスキューズを始めた国政政党の長がいる、という報道を目にした。
そうした政党がここまで広大な差別的なキャンペーンを張ったのは、票を集めるためのいわば「弱者の兵法」で、いざ国会が始まれば思想的にも実務的にも意外とまともだった、という可能性が、万に一つあるかもしれない。ほとんどその可能性はないと思うけれど。
ただし、万が一まともな政党になったとしても、未来永劫、俺たちは「あの政党は差別を“政治利用”したんだ」という経歴を、絶対に忘れてはならないと思う。自分たちが利するためなら、差別心につけこみ、憎悪の炎をたぎらせることも辞さない政党なんだ、ということを忘れてはならない。したがって、我々が使う捨て台詞は「覚えておけよ」じゃない。「覚えておくよ」だ。
最後に、重ね重ねではあるが、今日は大事な選挙の日なのに、全然関係ない映画の話をして申し訳ない。
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