偶然にも同じ日に健康診断(?)を受け、偶然にも同じ日、同じ時間に人生残りわずかだと宣告された見ず知らずの2人。"天国への扉をノックする"途上にある彼らが、「死ぬとわかっていればなんでもできる」ってなわけで、いまだ見たことがない海を見にいく道中で起こすドタバタクライムコメディ。
「コメディ」と書いたのは、これを「サスペンス」というには憚れると思うからで、全編に漂う嫌な意味での「ヌルさ」、言い換えれば甘ったるい世界観は否定しがたい。
その「ヌルさ」を端的に表しているのは、この映画であれだけ発砲されたにもかかわらず、明確な殺人描写が一つもないということだろう。もうそれは、絶対に死体なぞ映してなるものかという意地すら感じさせるところがある。
主人公達に殺人を犯させないというのは、ままあることだろう。けれどこの映画はそれだけではない。悪役であろうと、どんなに銃撃しても弾は人物を避けるかのように絶対に命中しない。この映画の一つの見せ場といえる、主人公らを間においての警官達とマフィアら(?)の銃撃戦。ここでも両者の車はぼろぼろになっているが、絶対に血は流れない。これはいったいどういうことなんだ。
別にぼくは、「グヘヘ、もっと血だ、もっと血を見せろ」とクラウザーさまみたいなことを言いたいわけではない。そうでなく、この映画の作り手たちの暴力に対する考えの甘さみたいなのは、どうしても好きになれないわけだ。その甘ったるい世界観の膜さえ突破していれば、男同士の「トゥルーロマンス」級、もしくは男同士の「俺たちに明日はない」級になっていたかもしれないのに、残念。
また、余命幾ばくもないなら犯罪を犯してといいのかという発想も、どうも腑に落ちない。「犯罪を犯さざるをえないと観客を納得させるための論理」をもっと乗せてくれないと、観る側もノリきれない。
それでもこの映画が★3つなのは、「こいつら嫌いになれない」という感情があるからで、特にコンビの荒っぽい方のマーチンを演じたティル・シュヴァイガーには、どこか見過ごせない色気がある。話の発端である「天国はいま海の話題で持ちきりで、海を知っておかないと天国で話題についていけないぞ」というテキトーなジョークも嫌いではない。あと、音楽もいい。
先述した「映画と倫理」問題については、次に取り上げる映画でも話題になるかもしれないのであった。