いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

追悼トニー・スコット 〜『アンストッパブル』(2010年)レビュー〜

ペンシルバニア州北部の操車場の貨物列車が、運転手の捜査ミスで無人のまま走り出してしまった!しかも、みるみる加速していく。このままいくと、大都市圏での大きな脱線事故はさけられない。貨物に毒物を積み込んでいるというのに……。


デンゼル・ワシントントニー・スコットが組んで第5作目となる本作は、乗り物パニックムービーだ。ストーリーはいたって単純で「やべぇ!www電車とまんねぇ!wwwwww」というタイトルそのまんまなのだが、約90分間ハラハラどきどきさせられるのは、疾走感あふれるカメラワーク(『サブウェイ123』を彷彿とさせる)や、語り足らずでも語りすぎでもない脚本によるところが多いのだろう。まさに職人芸と呼べる映画。

ところで、この映画には裏テーマみたいなものがあると思う。それは「いい仕事ですね!」だ。ある運転手のミスが事の発端になったこともそうだが、この危機に立ち上がったのが、デンゼル・ワシントン演じる勤続28年のベテラン運転手で、この人が見るからに仕事に厳しい職人肌だというのは、そのなによりの証拠だろう。ちなみに震災後の日本の原発事故も、事故後の調査で「人災」であることが判明した。日本の原発問題が unstoppable になっていることを思うと、「いい仕事」の重要性が身にしみてわかる。

閑話休題

こういうパニックものではしばしば、当該の危機とはなんら関係のない主人公たちの「個人的な悩み」が勝手にリンクされ、それが本筋の邪魔にすらなってくるという残念なパターンがある。いわゆる「セカイ系」というやつなのかもしれないが、この映画でも主人公たちそれぞれにある個人的な問題が浮上する。でもそれが本編を食わない程度に、むしろクライマックスの緊迫感を強めるほどのほどよい感じで効いていて、絶妙なバランスだと思った。


ところで、これは冗談でなく、先ほどこの映画を観ている途中に、Twitterトニー・スコットが亡くなったというニュースを読んでびっくりしてしまった。結果的にこの『アンストッパブル』が遺作になってしまった。
トニー・スコットといえば、個人的には暴力と愛が激しく交差する『トゥルーロマンス』が大好きで、当時話題になっていたストーカーをデ・ニーロが演じた(もしかして中年のトラヴィス?)『ザ・ファン』、先述した『サブウェイ123』の70年代クライムサスペンスの雰囲気もよかった。

作家としてそこまで熱心にフォローしていた方ではないけど、気づいてみたらこの人の作品に多くの感銘を受けた。
ご冥福をお祈りします。