いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

娘の処女を守るため、パパ立ち上がる!! 〜リーアム・ニーソン『96時間』(2009年)レビュー〜

リーアム・ニーソン主演、リュック・ベッソン制作の『96時間』は、娘を愛してやまない父親が彼女を取り戻すために孤軍奮闘する、カーアクションありガンアクションありのアクションエンタテイメント。

まず観客は冒頭たった十数分で、この主人公ブライアンの、引くほどの娘の溺愛ぶりを見せつけられます。彼にとって娘は生き甲斐に等しいのです。妻との離婚によって離ればなれになりますが、彼はCIAでの「人の命を守る仕事」(本当はどうだか……)を辞してまで近くに住み、彼女の平穏な日常を静かに見守り続けています。


そんな娘がパリへ旅行に行くというので、お父さんは気が気でありません。渋々許しはしたものの、旅行先で連絡するように専用のケータイを買って渡すなど、ここまできたら常軌を逸してますね。


そんなお父さんに悪いニュース。


パリで彼の娘を待ち受けていたのは、人身売買を生業とする移民犯罪グループによる誘拐だったのです!!彼らは若い女を誘拐しては薬漬けにして、早々に売り飛ばされるそう。売り飛ばされるまでのリミットは96時間!!


ここまで溺愛ぶりを見せつけられた観客はみな、きっとこう思います。

これはきっと酷い目に遭うぞ、と。
娘が?
いえいえ、犯人たちが。


ブチぎれたお父さん、すぐさまパリに飛びたち孤軍奮闘の闘いが始まります。パリへ飛ぶ飛行機の中で録音した犯人の声を繰り返し聴く姿は、怒りで目がもう逝ってます。

なんといっても本作の見所は、リーアム・ニーソン演じる「強すぎるお父さん」ブライアンの怒濤のアクションであります。最近この人が主演した『レミゼラブル』を見たんですが、この人の憂いに満ちた顔の醸し出す「すねに傷もってます」風のオーラ、もっといえばかつて確実に人を殺めてるだろうという想像をかきたてる雰囲気はたまりません。

執念に近い捜査によって犯人のしっぽをつかみ追跡開始。二転三転する娘の行方を、お父さん必死で追跡します。そしてその行く先々で、元凄腕エージェントとしての腕が炸裂!この映画で彼は「沈黙シリーズ」のセガールにも匹敵するぐらい強すぎるのです。


また、ここで、この娘さんがヴァージンという設定もミソです。
もちろん、娘さんは誘拐されたのですから、父親として彼女を救いたいと思うのは当たり前ですが、この主人公は本質的には娘さんの処女を命をかけて守っているのです。そのことは、劇中の様々な形で示される非処女の人命軽視から疑いありません。お父さんは娘の貞操の門番なのです。


人命軽視といえば、娘(とその貞操)を守るためなら(悪人といえど)何人ぶち殺してもいいのかよというツッコミようもあります。こうした現象を僕は勝手に「プライベートライアン現象」(ライアンという一介の2等兵を救うために劇中で何人もの人が死んでしまうという倒錯した現象)と呼んでいますが、エンタテイメントを成立させるためにこれはある程度しかたないのかと。だって、何よりもこの映画は、このお父さんのもはや執念にも近い娘への愛情がなけらば、成立し得ないのですから。
また、先にも少し書きましたが、この映画のお父さんは強すぎます。これははっきりと、映画としての興をそぐほどに、強すぎるのです。逆に言えば、敵がみな(インパクトも含めて)弱すぎるという話なんですが、これもこの映画のピントが父娘に合っているのだと考えれば、納得いく処理だと思いました。


最後に、この映画での印象的なやりとりを引用してしめましょう。
ついに娘のいる人身売買の現場を突き止め突撃した主人公のお父さんは、ある人物を追い詰めます。

ある人物「It was all business. It was not personal.」
(これはビジネスなんだ。個人的な恨みはない。)
ブライアン「It was personal to me.」
(俺には個人的だ。)


そう、このお父さんにとってこれは個人的な闘いであり、個人的なことである以上なりふり構ってられない。
娘の父親にとって、娘のことは治外法権。そして、多くの娘さんの背後には、娘のためなら何だってするという、ブライアンのようなお父さんが待ち構えているということ。
このことを、世の娘の彼氏という方々には、ゆめゆめご注意されたい。