いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】シュガー・ラッシュ ★★★★★

遅ればせながら観てきた。ゴールデンウィーク中なのか「席が大変込み合ってます」といわれ、やっぱり人気なんだねーと思いながら入ったシアター3にて驚かされた。年齢層がめちゃめちゃ低い。
半分くらいは親子連れで、あと半分は中高生グループ(うち何組かはカップル)。その中でアラサーの小っちゃいおっさんが一人ちょこんと肩身の狭い思いをしながら観てきたです。

紙ひこうき

まず、同時上映された「紙ひこうき」。こちらはもうすでにディズニーの公式チャンネルで全編公開され(さすがに劇場公開中の今はプライベートモードになっている)、評判も上々。最近でいうと、芸人の鉄拳のパラパラマンガ的な何かを感じる感動的な短編。
あらためてスクリーンで観て思ったのは、短編だからではないだろうが、細部まで恐ろしいくらいこだわりが詰まっている。
ちょうど本編シュガー・ラッシュが超現実的な話なのに対し、こちらは現実に根差したストーリーだが、クライマックスで主人公とヒロインを繋げるためのちょっとしたスペクタクルが用意される。
どんなカップルの成立にも、運命としか言いようがない、いわく言い難い力が働いているんだよ。もちろん君のパパとママだって――ということをこの短編はスクリーンの前の子供たちにささやいていたように思うんだけれど、隣席の女児は「あたしこんなの観にきたんじゃない!」と隣のパパに文句を垂れていた。これを理解するのにはまだ早かったか。ちなみにこの娘、2時間中ずっとパパに話しかけていたのだが……。

シュガー・ラッシュ

さて本編シュガー・ラッシュ。多くの人がベタボメしているところ、申し訳ない。言うことなかったです。子ども向け映画でこんな上質で、クオリティの高い映画って今までどれだけあっただろうか。

ゲームセンターで30周年を迎えるゲーム機「フィックス イット フェリックス」で悪役を務めるラルフは、さみしさを感じていた。万年悪役の彼は誰にもかえりみられない。彼がやっつけられることこそが各キャラの、そしてプレーヤーの喜びなのだ。俺は悪役、でもそれでいいと、彼はずっとそう思ってきた。けれど、30周年パーティに呼ばれなかったことをきっかけに、彼の気持ちに火がついて……。


子どもがいなくなり、閉店したゲームセンターでは夜な夜なゲームキャラ達が……という設定を聞いただけでわくわくする。身も蓋もない言い方だが「トイ・ストーリー」のゲームキャラ版といえばわかりやすいだろう。
しかし、「トイ・ストーリー」より俄然テンションがアガるのは、今作には実在のゲームキャラがそれこそ無数に「カメオ出演」しているからだろう。あげると限がないのではしょるが、悪役同士が集まってセラピーを開く場面など、声を出して笑ってしまった。

作りこみもすごくて、たとえばゲーム画面上ではドット絵のキャラクターたちが、会話シーンでは3Dアニメになっている。けれど、モブキャラの場合はその会話シーンでもドット絵特有のあの不自然なカクカクした動きをするのである。本来なめらかなはずの3Dアニメを逆手に取った演出だ。たぶん他にも、探せば探すほどきりがないくらいそうしたギミックは詰め込まれている。


ラルフは「悪役」という与えられた仕事に疑問を持ち、ヒーローになるために七転八倒する。その先で出会ったのが、レースゲーム「シュガー・ラッシュ」内のキャラクターのヴァネロペ。「やっつけられなければならない存在」と「存在してはならない存在」という似た者同士の二人が、はじめはいがみ合いながらも次第に、共通の目的のために意気投合していく。


ところで、この映画で最も涙腺に大爆撃を仕掛けてくる箇所といえば、やはりあの「手作りメダル」の場面だろう。
ここで、先の短編「紙ひこうき」を振り返ってもらいたい。この2編が同時上映にしたのには、それなりの意味があると僕は思う。というのも、この2作は対の関係になっているのだ。「紙ひこうき」はボーイミーツガール、つまりカップル成立までを描いているのだ。それに対し、「シュガー・ラッシュ」はおそらく「その後」だ。このラルフとヴァネロぺの二人は恋人関係ではなく、むしろ父親と娘の関係に似ている。

会社で上司に成績が悪いとどんなに嫌味をいわれても、妻に稼ぎが少ないとどんなになじられても、他でどんなに「やられ役」であっても、お父さんは娘にとってだけはヒーローなのだ――そんなことを言っているような気がしてならない。


クライマックスの山場で畳み掛けられるように回収されていく伏線も見事。黒幕の正体が明かされるシーンなんて、この映画全体のトーンからすれば異常なほど怖かった。もちろんそれはあのキャラの顔が怖いからであるが、同時にこの映画の作り手たちの優秀さに恐れおののいたところもある。洋邦を問わず、「大人向け」の映画でここまで鮮やかに構造が成り立っている映画が、ほかにあるだろうか。

「醜いあひるの子」的なラストも、ご都合主義的だけれども、これぐらいのご都合はあってもいいだろう。今年観た映画の中で最も強く味わった昂揚感は、そんなことでは減じない。
ちなみに、隣に座っていた父娘がこの映画にどのような感想をもったかは知らない。たぶんあの娘はこの映画を理解できなかっただろう。けれど、上映中も落ち着きなくずっと足をプラプラしていたあの娘が、将来パパをヒーローと思えるような女の子に成長したら、どんなにいいことだろうなーと、アラサーの小っちゃいおじさんは思ったです。てへ。