
よく会社のおじさんやおばさんなど、年配の人に古い歌謡曲の話題をされると、意外とこっちがついていけることに「こんな歌よく知ってるね!」「生まれる前でしょ?」などと驚かれることがある。
しかし、これは別に何もぼくが特に(最近流行りの)昭和好きであったり、昭和歌謡マニアであったりするわけではない。子どもの頃に日本テレビの『速報!歌の大辞テン』を観ていただけなのだ。1980年から90年生まれの今20代から30代で観ていた人はみんなそうだと思う。
『速報!歌の大辞テン』はかつて日本テレビで放送された歌番組だ。徳光和夫と中山エミリが司会で、毎週、最新のチャートのトップ10と、ランダムで選ばれた昭和から平成にかけての古いウィークリーチャートのトップ10を交互に発表、放送していく内容だった。のちに『COUNT DOWN TV』に「COUNT DOWN TVライブラリー」としてパクられるわけだが、あのコーナーに比べると、扱う時代のレンジがはるかに広い。
今調べると、この番組は1996年から2005年まで放送されていたらしい。意外と長い。台本丸出しのスタジオトークは子どもからしても少しサブかったし、最新チャートは収録のためか2週間も遅れていた(たぶん当時一番早く最新のチャートがチェックできた歌番組は生放送の『ミュージックステーション』だったと記憶する)。「速報」でもなんでもなかったのだ。
それでも、この番組を観ていたのは、よくわからない、古い歌謡曲が毎週聴けたからだ。
インターネットもまだ普及していなかった時代。キャンディーズにピンク・レディー、松田聖子はもちろん、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」も布施明の「君は薔薇より美しい」も、「知ろうとしていなかったけど知ってしまった」のは、全部この番組を通してだと思う。
もちろん、当時から高齢者向けの昭和歌謡の番組はあったかもしれないが、それではぼくは昭和歌謡にたどり着けなかった。最新チャートとの抱合せでなければ。だから『速報!歌の大辞テン』でなくてはならなかったのだ。
元来、テレビはその影響力の大きさと裏腹に「低俗」「下劣」「大衆的」「垂れ流し」と散々な言われようである。
けれど、テレビにはテレビの良さがある。それは「よきせぬ出会い」を誘発することだ。
映画評論家の町山智浩氏は、その映画知識の博覧強記ぶりで知られるが、その下地にあるのは、子どもの頃に観ていた夕方の映画番組『4時のロードショー』である、とたびたび公言している。子どもの頃に、ブラウン管を通して浴びるほど映画を観たことが、文化的な素養だった、というのだ。
僕が小学生の頃、東京12チャンネルで「4時のロードショー」という洋画枠がありました。学校から帰って、アニメや特撮の再放送が始まる夕方5時よりも一時間前、その枠で山ほど映画を観ました。 https://t.co/75ccl8xajk
— 町山智浩 (@TomoMachi) 2023年6月18日
プル型のメディアであるインターネットは、好きなときに好きな情報にアクセスできる。レコメンデーション機能によって「自分が好きそうなもの」を提示してくれるようになって久しい。
しかし、それだけだったら、たぶんぼくは昭和の歌謡曲まで行き着いていたかはかなり怪しい。たぶんネットは「ぼくの好きそうなもの」として、歌謡曲を用意はしてくれないだろう。あの四角い箱と、『速報!歌の大辞テン』が勝手に「垂れ流し」してくれくれなければ、歌謡曲にたどり着けなかったしぼくのまだらな文化的作用は形成されなかっただろう。
そろそろぼくらは、 『速報!歌の大辞テン』と、あまりにも低く見積もられすぎてきたテレビの文化的意義を再評価するときかもしれない。