いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】先生を流産させる会

先生を流産させる会 [Blu-ray]

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悪辣だけど優しい、優しいけど悪辣――そういう両義的な人、もの、事というのがたまにある。本作もそんな感触のある一作『先生を流産させる会』だ。
5人の女子中学生が担任教師の妊娠を知り、流産させようと画策する、まさにタイトル通りの映画。5人のリーダー格のミズキが発した妊娠が「キモい」という一言を発端に、5人は担任に様々な形で危害を加えていく。

「キモい」から担任に流産させる生徒というとなかなかオゾマシイ話だが、実は背景にはもっと本質的、根本的な問題意識がある。
少女たち(といっても主導するのはミズキ1人で、後の4人は追従者にすぎない)が「キモい」と指弾するのは、何もその女教師の固有の妊娠ではない。彼女らの攻撃対象は女性性そのものであり、その射程の範囲にはこれから大人の女へ変貌を遂げていく自分をも射程に入っている。いわばこれは自傷行為でもあるのだ。本作は実際に起きた事件に着想を得ているが、現実の事件とのもっとも大きな違いは、加害者生徒たちが女だということだ。そして、加害者たちが被害者と同性だということが、本作で実は大きな意味をなしている。
とくにミズキはまだ当時小学生だった少女が演じているのだが、終始ムスッとし、特異な磁場を発している。彼女は常に、何かにイラ立っている(こんな同級生、中学のときいた!)。
最初はそのイラ立ちの対象がわからなかった。でも途中でわかる。自分が「女」へと変貌を遂げていくことに、イラ立っていたのだ。


本作はかつてヒットした日テレドラマ『14歳の母』と問題意識を共有しているといえる。後者は女子中学生が出産するのに対し、前者は女子中学生が他人を流産させる内容で、そういう意味ではまったく内容は異なるが、どちらも子どもから大人の女になることに対する向き合い方である。『14歳の母』が早過ぎる変化を覚悟を持って受け入れるのに対し、本作のミズキは力づくでその変化に抗おうとしているのだ。
先生を流産させる会の面々は極めて悪辣に描かれるがその反面、その背景にはそうした変化の途上にある彼女らを優しく見守る映画の姿勢も垣間見てしまうのだ。