いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】不妊治療、やめました。―ふたり暮らしを決めた日


男性はともかく、女性にとって子どもを作るか作らないかは人生上の大きな決断です。けれど、自分の意志は関係ないところで「作りたくても作れない」場合だってある。本書「不妊治療、やめました。」は、漫画家の堀田あきお漫画原作者の堀田かよの夫婦が、自分たちの不妊を知り、さまざまな治療法を試した戦いの日々を描いたエッセイ漫画です。

絵柄はコミカルですが、書いていることはなかなかヘビー。だって物語の発端は、かよさんが子宮内膜症を発症し、せっかくの結婚式をキャンセルしたところから始まるんです。絵柄がコミカルでギャグ調ではありますが、だからといってその深刻さが伝わりにくいかというと全然そういうことはなくて、むしろ、絵柄と内容のミスマッチが、かえって読者には刺さる。

内膜症は再発する可能性が多いが妊娠を機に治ることもある、という医師の勧めを受け、ふたりは子作りを始めます。そこで、不妊が発覚する。不妊はもちろん男の問題でもある。あきおも交えて、ふたりの二人三脚での不妊治療が始まります。例の病院の個室での採精作業(オナニー)も当然あります。時には、朝早く起きたあきおのナニを無理やりおっきさせてかよが出して、その成果物を胸に挟んでそのまま病院に直行するという滑稽なような壮絶なようなエピソードも。

何が残酷って、妊娠することだってあるんです。ただ、ぼくら読者はタイトルで結末を知っていますから。流産にいくまでのあきおとかよのはしゃぎっぷりが、なおのこと読んでいて切ない。この「産めるかもしれない」というのは厄介です。途中に挟まれるコラムでかよさんは生殖医療の最先端に触れ、「どんなに無理してでも欲しい人には、治療終了のタイミングがさらにわからなくなってシンドイだろうと思うんです」とも語ります。いや、本当にそうで、それならいっそ「可能性ゼロ」と言われたほうが楽になる気さえしますよね。

途中、アンラッキーな引っ越しや、あきおVS宿敵アトピーなども挟まりますが、巻末でついにかよが不妊との最終決戦に臨みます。

この漫画がやんわり描いているのは、一部のあまりにも無配慮な医師の姿です。かよさんのコラムで読みびっくりしましたが、流産で入院した際、同じ部屋が妊婦ばかりだったとか。かよさんは自分が鈍感だったから傷つかなかったと言っているし、部屋割りの都合でどうしようもないところもあったのでしょうが、そんな仕打ちって、あります? ただし、あくまでも本作の描写は発表時から数えて10年前の状況ですから、もしかしたらその間に改善しているかもしれませんが。

死ぬような思いをして治療を頑張って、それでも子どもはできなくて。でも2人は「不幸」だったとは思わないと記します。それは強がりなんかでなく本当のことだと思う。夫婦で二人三脚でこんなしんどいことを乗り越えたんですから。それはきっと、夫婦の絆をより強いものにしたのだろうと思いました。