いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

これが本当の夫婦を超えていった先? 『1122』が『逃げ恥』に投げ返したボール

1122(1) (モーニングコミックス)

 

ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の続編が新春のスペシャルドラマで放送される。ぼくは原作漫画こそ読んではいるが、TBSが狂ったように何度も再放送しているドラマ版を実は見たことがない。

最終回 夫婦を超えてゆけ

最終回 夫婦を超えてゆけ

  • 発売日: 2016/12/22
  • メディア: Prime Video
 

しかし、そんなぼくでも一点だけ、腑に落ちないことがある。星野源による主題歌『恋』についてだ。

サビの終わりで「夫婦を超えていけ」と彼は歌う。いや、ガッキーと星野、結婚してるやん。誤解を恐れずにいえば、この作品は「結婚をハックしよう」という話であり、決して、「結婚を超えろ」という話ではなかったはず。

そういう意味で、「夫婦を本当に超えていった」その先に付いて描いているのが、今日紹介する渡辺ペコの漫画『1122』(いいふうふ)だ。
 
フリーのWebデザイナーのいちこと、会社員のおとや。30代の2人は結婚7年目。リベラルな東京の共働き夫婦らしく、対等で、穏やかな夫婦関係だ。
 
ただ一点だけ、他の夫婦と大きく違うのは、おとやが「公認不倫」をしているということ。2人はあることがきっかけでセックスレスとなり、その後、おとやが知り合った人妻の美月と不倫関係に陥ってしまう。そのことを打ち明けられたいちこは、おとやを許し、いくつかのルールを課した上で夫の不倫を黙認することにしている。

 

ここまでは、実は『逃げ恥』のまっすぐその先の延長線上を進んでいることがわかる。

「いやいや、ガッキーも星野源も不倫なんかしてないよ!」とツッコむ前に、まあ聞いてほしい。

『逃げ恥』で描かれるのは、 「契約結婚」すなわち、「結婚という制度にとりあえず入ってみたら、あながち上手くいくんじゃない?」という主張だ。

ここで、雑ではあるが理性と感情という二元論を使おう。理性が契約、ルールを司り、感情が愛情、性欲を司るとして、『逃げ恥』のテーマは、「理性(契約、ルール)が先だてば、感情(愛情、性欲)は後から付いてくる」ということだ。

 

『1122』の冒頭、「公認不倫」が描かれることも同じだ。「2人で決めたルールを守って不倫をすれば上手くいくんじゃない?」。

『逃げ恥』ファンは考えたくないかもしれないが、みくりが平匡とセックスレスになり、感情も冷めきったその後、彼女が外で運命的な出会いをしてしまったとしたら…。「契約結婚」の「修正条項」として「公認不倫」が追加されることも想像に難くない。

 

しかし、『1122』が『逃げ恥』の延長線上から逸れていくのはその先だ。

おとやの美月に対する思いは、いちこからしたらダダ漏れ。おとやの些細な言動から、次第にいちこの心はざわつき出す。

ルールを作ったはずなのに、黙認するはずだったのに、感情のひだはどんどんささくれ立ち、いちことおとやのあれだけ穏やかだった関係は、美月とのあれやこれやも巻き込みながら、どんどん険悪なものへとなっていく。

 

独断と偏見をもって書くとすれば、『1122』から『逃げ恥』に投げ返されたボールは、「理性(契約、ルール)でも制御しきれない感情(愛情、性欲)もあるよね」だ。

結局、どれだけリベラルに「合意」「容認」「承諾」で物事を進めていったとしても、どこかで必ず、自分の感情にしっぺ返しを食らう。『1122』が描くのはそうした制御不能な感情についてだ。

 

かくがくしかじかをへて、いちことおとや、2人が「超えていった夫婦のその先」とは? 7巻完結なのですぐ読み終われる。今からツタヤで借りてきて、今年の11月22日中に読み終えてほしい。

1122(1) (モーニングコミックス)

1122(1) (モーニングコミックス)