いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】胸騒ぎの恋人


胸騒ぎの恋人 Blu-ray

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本作『胸騒ぎの恋人』はフランスの26歳の新鋭、グザヴィエ・ドランの監督第2作だ。監督処女作『マイ・マザー』のテーマが文字通り「母親」であるとすれば、本作のテーマは「恋」だ。前作同様に心配になるほどド直球なテーマだが、これがまたしても、見応えのある作品になっている。前作と同様にドラン自身が主演も務めている。

姉弟のように仲の良いフランシス(ドラン)とマリーの男女の前に、絶世の美青年ニコラが現れる。ドラン本人も十分イケメソに思えるが、このニコラを演じた俳優ニールス・シュナイダーもまた別種のイケメソである。日本人俳優なら高良健吾に似ているだろうか。はにかむ瞬間の表情がキラースマイルである。

ゲイのフランシスとストレートのマリーはすぐにニコラに夢中になり、互いへの嫉妬をたぎらせることで、さらにニコラへの慕情を募らせていく。まさにこれ、SA★N★KA★KU★KA★N★KE★Iである。


先述したように本作のテーマは「恋」である。誰かに対する恋心というものを、本作はいかに描くか。監督が描こうとしているのは「報われる恋」ではなく「報われない恋」である。
なぜ「報われる恋」でなく「報われない恋」を選んだかはわからない。
けれど、ぼくが推測するに、監督は相思相愛では恋心が本来もつ病気にも似た相手への執着心、変態性を表現できないと考えたのではないだろうか。なぜなら、相手も同程度にこちらを愛してくれる「報われる恋」ならば、相手も頭がおかしくなっている分、狂気が相殺されてしまう。「恋をしたら人は馬鹿になる」という事実を描くためには、「報われない恋」を描くしかないのだ。
本作では3人のドラマの合間に、別の男女らによる恋愛に関する独白が挿入される。彼らが語るのはみな失恋の話である。彼ら彼女らは、振り向いてくれない相手に対して自分や自分の友人が、いかに狂気に満ちた振る舞いをしていたかということを事後の視点からとうとうと語っている。
彼らの口ぶりは多種多様で、なぜあそこまで惚れ込んだのかを不思議がる口ぶりもあれば、おかしく笑い飛ばす口ぶり、さらには、まだ全然立ち直れていないように見える人もいる。


フランシスとマリーは、お互いのニコラとのやりとりをヤキモキしながら、恋のデッドヒートを繰り広げる。その先で待っているのはもちろん残念な末路である。どちらもニコラにこっぴどくフラれてしまう。

本作はさらに、「破れた恋」に対して追い討ちをかける。落ち込むマリーが美容院でこんなに落ち込んだ客も初めてだろうと聞くのだが、理容師は20年もやっていたらそういう人はよくいると返答する。
そう、まさにこれである。ある誰かへの恋に破れた人物と、それ以外の人々の間にある絶望的なまでのギャップ。本人はこんなに落ち込むことがあるのかというぐらい落ち込むが、他人からすればそれは成就しなかった恋愛についての「よくある風景」にすぎない。
本作はそんな恋心の不条理を描き出す。これを観ればわかる。恋愛なんてするもんじゃない。