子どものころ、近所に「近寄ったらあかん変なおっちゃん」というのがいた。いつも眼光鋭く、よく見たら男前にすら見える風体なのだが、いざ油断して近づいた女児に「✕✕✕✕してーな」などといって、近所でやっぱりあいつあかんやつや大問題になる、あのおっちゃん。
もしそんなおっちゃんを、ジャニーズのタレントが演じたとしたら、どうだろうか?
本作『味園ユニバース』は、大阪に実在する味園ビルのキャバレー・ユニバースを舞台に、記憶を失った男と彼の歌声にみせられた少女が織りなす物語。『天然コケッコー』『マイ・バック・ページ』などの山下敦弘監督作。
記憶を失ったミュージシャンというと、未だに10人中4人ぐらいが「ピアノマンかよ!」となると思うが。
関ジャニ∞の渋谷すばるが記憶を失った"ポチ男"を熱演(熱唱)している。
皆さんご存知のとおり渋谷すばる、男前なのである。男前ではあるけれど、見ているうちにそうした顔立ちの端正さは気にならなくなり、次第にそのキャラクターに刻まれた年輪というか、奥行きというのが強く印象づけられていく。
とくに記憶喪失後は無口で、間の抜けた感じがどこか不気味ですらある。彼を見ていたら、そういえば実家の近所にこういう危ないおっさんがいたなあと思い出した。そう、この映画での渋谷こそが、「近所におる近寄ったらあかん変なおっさん」なのだ。
失われた記憶はもどることないまま、"ポチ男"はその歌声をカスミ(二階堂ふみ)に買われ、彼女がマネージャーをつとめるバンド・赤犬のゲストボーカルに招聘されることになる。
赤犬は実在のバンドで、彼らの素がそのままがにじみ出ているような味のある本人出演を果たしている。ポチ男は彼らの中に完全には組み込まれず、彼の個人的な問題がカスミとの間だけで処理しているため、よりあっさりしたものになっている。
惜しむらくは、その反面でポチ男と赤犬たちの関係が曖昧というか雑になっているところで、せっかくゲストボーカルに迎えておきながらバックれられても大してリアクションがなく、一方で土壇場になっての復帰もほとんど無条件に受け入れると、いい人すぎるような気がする。
また、クライマックスにかけてのポチ男が味園ユニバースにやってくるあたりの流れは、やはり多くの人がやや強引すぎるとは思うだろう。
けれど、新宿のゴールデン街みたいな味園ビルのゴミゴミした昭和の風情と、渋谷の存在感、赤犬の楽しそうな雰囲気で充分もとはとってしまった。