- 発売日: 2016/02/10
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ひさびさに、いい映画観たな―という感慨に浸れた。幼稚園のお遊技かという邦題をのぞき、すべていい。音楽の力というのを感じさせられる一作だ。
落ち目の音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)が、偶然入ったバーでアマチュアミュージシャンのグレタ(キーラ・ナイトレイ)の歌に聞き惚れるところから、映画は始まる。
この冒頭の場面の時制をいじくった語り口がとてもうまくて心地よく、ダンのお先真っ暗な現状や、グレタの身に起こった酷いことなどが効果的に明かされていき、素直に世界に入っていける。
グレタの歌は全く同じものが2度流れるのだけれど、1度目と2度目で意味合いが全くちがい、「歌が届く」という場面を効果的に描いている。すごくわくわくしてくる、好きな場面だ。
映画に入り込んだためだろうか、この映画に関してはサントラも、ただ単に「サントラ」とは思えなくて、ついついiTunesで買ってしまった。
おそらく、この映画が好きになる=この映画の音楽が好きになるということなんだと思う。
- アーティスト: サントラ,セシル・オーケストラ,ヘイリー・スタインフェルド
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
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興味深いのはグレタのキャタクター設定で、化粧が薄くて服も質素な彼女は「本物」志向というのだ。
ダンにどのようにプロデュースしていくかを聞かされたときにそれを拒否し、外見にこだわるのはおかしい、ミュージシャンなんだから歌で勝負すればいいと主張する。
ここではっと思い出したのは、菅付雅信氏が著書で欧米のトレンドとして紹介した「中身化」という現象だ。
- 作者: 菅付雅信
- 出版社/メーカー: 講談社
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読んだときはいまいちピンとこなかったが、この映画のグレタをみて初めて、こういう人のことね! と合点がいった。
ただ、あの本を読んだときも感じたが、何が「本物」かなんて玉ねぎの皮をむいていくようにきりがないことではないのか? この点で、グレタが「本物」の例に出したボブ・ディランについて、ダンが「あいつこそ印象重視だぞ! 10年毎にサングラスをかえてる」とチクリとやるあたり、クスッと笑える。
お金もなくてスタジオが借りられない2人は、デモテープづくりのため、ニューヨークそのものをスタジオにするという大胆な策に打って出る。屋外で楽曲を録音するという試み自体はすでに前例があるけれど、防音設備で無音を人工的に作るスタジオより、さまざまな生きた雑音が偶発的にはいる屋外での録音を選ぶところなど、いかにもグレタらしい。
印象的なシーンがたくさんあって、たとえばイヤホンのスプリッター(2組のイヤホンで同じ音楽を聴けるようにする機具)をつかって街を闊歩するところなんて、すごくいい。
- 出版社/メーカー: ネクストゼロワン
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あんなことされたら惚れてまうやろ案件なのだが、まさに2人だけの世界になれてしまえるのだ。これをつけたまま、お互いにお勧めの曲をかけながらデートするなんて、いいじゃないか。
なるようになりそうでならなくて、ちょっとほろ苦い後味のする結末もいい。
この映画に関しては、音響設備の整った劇場でみることをおすすめする。