いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密

チューリング・マシン」で知られるイギリスの数学者のアラン・チューリンが第2次大戦中に関わった「エニグマ」解読の顛末を描く、ベネディクト・カンバーバッチ主演作。

エニグマ」とはナチスドイツの使っていたことで知られる暗号機だ。英国側は「エニグマ」を手に入れていたものの、その解読方法のパターンは159×10の18乗という天文学的な数にのぼり、しかも日ごとにそのパターンは変わってしまう。つまり、解読がほとんど不可能に等しい。
しかし、もしそれが解読できたならば戦争の早期決着すらありえる重大事で、チューリングはその偉業に挑むことになる。


カンバーバッチが演じるチューリングというのが、これまた「天才学者」の定型をなぞったような存在で、「客観的」な物言いによって、悪意はないにしろ周囲に反感を持たれていってしまう。
でも、こうしたステロタイプな「天才学者」像にはちゃんと意味がある。この映画では、チューリングに解読が託されたエニグマの難解な暗号とともにもう一つ、彼にとっての人間社会がそれに等しいか、もしくはそれ以上に複雑怪奇で難解な「暗号」として対比されているのだ。
暗号解読チームでチューリングが孤立していく中、事態を好転させるのは、彼にその才能からスタッフとして採用される才女、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラークの存在。

ジョーンはチューリングと正反対というほどコミュニケーションに長けており、彼女がチューリングにとっての「暗号」解読の導きの糸となることで、解読チームの仲は融和していくことになる。
その他にもこの作品には、同僚のヒューがバーで見かけた女性について「最初に俺を見てきて、そのあと無視し続けているから気があるはずだ」と言ってチューリングをぽかんとさせる「暗号」の場面がある。日頃から男女の間で通わされる「暗号」解読に四苦八苦な非モテ鑑賞者たちは、チューリング、お前もかとスクリーンに入って一杯奢りたくなるはずだ。


さらにチューリングを苦しめていたのは苛烈な同性愛差別だ。
男娼を買ったことで逮捕された取調室で刑事に対し、「チューリング・テスト」(チューリングが考案した、対象が機械なのか人工知能なのかを判断するためのテスト)になぞらえて自分はいったい何者なのかとアイデンティティを問う彼の姿は、あまりにも悲痛だ。他者を愛するという本来なんら罪のないことを、「犯罪」として罰せられる時代の話である。



投獄を免れるため、男性ホルモンの投与による同性愛の「治療」を選択した彼の変わり果てた姿をみて、ジョーンはこういうーー「あなたが普通じゃないから 世界はこんなにも素晴らい」。
その言葉に安っぽさを感じてしまうところもあるのだけれど、そうとでも思わないとやっていられないほど、推定1400万人の命を救った英雄であるはずの彼の末路は、あまりに悲惨である。