いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】マイ・マザー


マイ・マザー [DVD]

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天才は概してマザコンである――こうした暴論を立てたくなる一本を今日は紹介したい。
フランスの若手クリエイター、グザヴィエ・ドランによる2009年の監督・脚本・主演デビューを飾った一作。何が凄いって、彼はまだ25歳ですでに4作の映画を世に出していて、さらにほとんど1人で作ったといえるこのデビュー作にいたっては20歳のときだ。ほんともう、いいかげんにしてほしい(言いがかり)。
20歳である。20歳のときにあなたは何を考えていただろう? ぼくなんてほぼ9割は性的なことで脳内を支配されていた。そんな時分にしてこのもっとも触れたくない、客観視することが難しい「母親」を題材にするなんて。


しかもこの作品は、(とくに思春期の)息子と母親の関係性をほぼ完璧に描き切っているように思える。
登場するのはフランスに住まうありふれた母子家庭の風景だ。高校生の息子は、母親の些細な言葉尻や言動を捕まえ、やり過ぎじゃないかというぐらい当たり散らす。そしてそれに負けず劣らず、母親も激烈な言葉を持ってこれに応戦する。


にもかかわらず、なのか、だからこそなのか、この母子がごく普通の家族に見えていってしまう不思議。そうか、思春期の息子と母親なんて「不安定な状態が安定している」ものなのかもしれない。
「殺した」というほどの母親への嫌悪は本物なのだけれど、それも含めてすべて「自分はこの女性の息子である」という動かしがたい、強大な事実の内部での出来事なのだ。
もちろんそうした母子の切れない絆が悪い方向に転がることもあるけれど。

主人公が監督と同じゲイであることから、彼が監督の投影であることは間違いないだろう。こうした映画を撮ること自体から、監督自身も母親の影響下にあり、その逃れがたさに半ば諦念しているのだろうという気がする。


冒頭で書いたように、天才がマザコンだとするのにはわけがある。日本にも同じような例があるからだ。ダウンタウン松本人志である。


母と息子のアンビバレントな関係性を、これほどまでに克明に活写し、お笑いにまで昇華させた作品をぼくは知らない。
日仏二人の天才は、「お母さんが好き」と直接的には絶対言わない。千の言葉、万の身振りを通して、迂回した形でそのことを表現している。