いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

睾丸が見えるか見えないかの限界ギリギリに挑戦しているような半ズボンを母親に穿かされ、それでなくてもまるまると太って飛びきりキュートな小学生だった僕は、自分がロリコン変態野郎(もしくは女)の向ける淫らな視線の餌食になっている、という根拠なき妄想にとりつかれていた。
そんな小学五年生のある日、図工の作品の完成が遅れに遅れた僕が、放課後教室に残ってその仕上げに取りかかっていた時だ。背後では、担任の男性教諭H先生のテストを採点する赤ペンの「シュル、シュル」という音だけが、小気味よく鳴り続けていた。他に誰もいない。
そこで突然僕は、自分がまんまとはめられた猥雑なる陰謀の全貌に気づいてしまったのだ!
H教諭は僕の体を狙っている、僕を犯そうとしているということに!
だからこそ数々の姑息な手段によって、僕の作品は他の学友のよりも完成を遅らされてしまったのだ。それに気づいてから、作品なんかに集中できるわけがない。作業に没頭するふりをして、僕は背後の「シュル、シュル」の音に聞き耳を立てていた。すると、こちらが感づいたのを見計らったかのように、そのペンの音がピタリと止んでしまったではないか。
音の止んだことが、事実を伝えている。ペンを置いたH先生が、背後から(バックから)僕に襲いかからんと迫ってきているのだ。全身から血の気が引いていくのがわかる。怖くて振り返れない。相手に背中を向けるかっこうで作業を始めた自分の不運を呪った。

あぁ、汚れを知らない僕の菊門は今日ここで、38歳独身男性の強欲なる先端によって、無惨にも貫かれてしまうのだ。
お父さんお母さん、ごめんなさい。僕は10歳あまりにして、すべてを知ってしまいます。教師という正常に潜む異常も、男の性欲という名のエゴイズムも、性的快感の甘い甘い蜜の味も、そして「そんなところにものが入るんですねっ!」という物理的な事実も。
もう少しだけ子供でいたかった。そんな未練が一瞬頭をよぎったものの、僕はすべてを受け入れる覚悟をした。先生、初めてだから優しくしてね。
・・・・・・
音の発生には原因が存在する。しかし、それが見えずとも音は届く。時に視覚なき音は、聴く者の内面において、音の主の存在を影絵のように強大にして、凶悪にして浮かび上がらせることに与することとなる。視覚にとらわれない音は、想像力をかき立てるのだ。
・・・・・・
「ガラガラガラ」
その時教室の静寂を切り裂いたのは、入り口の戸が開く音。振り返るそこにあったのは、教諭の陰謀にいち早く感づき、僕を助けに駆けつけてくれたクラスのマドンナA子ちゃんの姿、・・・であるわけもなく、教室を出て行くH教諭の背中だった。
あぁ、トイレに行きたかったんですね、そっちの方の排泄でしたか。
結局襲われなかった僕はその後も、耐え難いトラウマの無限ループで脳髄をバチッとキメた危険度がっちがちの超ド級、「連続サイコ殺人鬼 I青年」などへ変貌することなく、平穏な青春を送ることとなる。

菊門は、今も無事である。