いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】フェア・ゲーム ★★★★☆

開戦を正当化するためにアメリカがついたイラク大量破壊兵器を保持しているという「世紀のウソ」。
本作「フェア・ゲーム」は、そのウソに翻弄されたある一家を描いた実話もの。

ナオミ・ワッツ演じるヴァレリーは、イラク核兵器開発の証拠を探す作戦に参加しているCIA職員。核兵器製造に必要なウランがアフリカ・ニジェールからイラクへ流れたという情報の真偽を確かめるため、現地にコネのある彼女の夫で民間人のウィルソン(ショーン・ペン)に、現地調査の要請が舞い込む。


ここから先に起こった現実は多くの人が知っているだろう。「大量破壊兵器」があるのかという調査はアリバイにすぎなかった。すでにイラク核兵器が「ある」という結論がありきで、ペンタゴンは動き始めていたのだ。本作では、「大量破壊兵器」という虚構が、まさにウソからでた真で、いかに「偽造」され、いかに関係者が口を閉ざしていったのか、そのプロセスの一端を垣間見ることができる。

と、ここまでだと壮大なスケールの話が展開していくように思えるが、中盤以降は急速に、「家族」の話へと収束していく。

自分の調べた事実と政治家が話したことがちがうということにウィルソンが気づき、よせばいいのにマスコミへリークしてしまう。ちなみにウィルソンのこうした頑固な性格は、実は冒頭の会食シーンですでにしめされていて、よくできている。

ウィルソンは、政府のウソを暴く戦いに偏執狂的にのめりこんで行ってしまう。今でこそ彼が言っていることが正しかったといえるが、2003年当時のアメリカでブッシュ政権イラク戦争にどれだけ支持が集まっていたかを考えると、困難な戦いであったことがわかるだろう。ちなみに、当時アメリカの一般家庭で、イラクがどのように語られていたかは、2度目の会食シーンで生々しく示される。


妻を、そして幼子たちの危険も顧みない彼に、家族が崩壊しかけたとき、現実に日の光が差し始める。続きはぜひ観てみてほしい。

ショーン・ペンナオミ・ワッツの夫婦といえば、奇しくも最近紹介した『リチャード・ニクソン暗殺を企てた男』と同じキャストだ。あちらのサム・ビックも、一つのことにこだわると周りのことが見えなくなるようなタイプで、夫婦の関係も破滅しかかっているのは似ている。いわば今作『フェア・ゲーム』は、グッドエンドな"サム・ビック"と呼べるかもしれない。


ウィキペディアによると、事実に忠実であることで評価を得ている今作だが、その反面後半のマスコミの攻撃に晒されてヴァレリーが精神的に追い詰められていく描写が、やや弱い。『アルゴ』のベン・アフレック監督なら、史実などお構いなしにもっと盛りに盛って恐怖を煽っていただろう。
また、ラストの前のウィルソンの演説も……悪くはないんだけど背中がかゆくなってくるというか、この出来事をそんな青臭い主張に回収していいのだろうか、という気がしないでもない。
しかし全体的には上々。陰謀系大好きな人にはオススメだ。


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