『キングオブコント2021』で惜しくも準優勝、『M-1グランプリ2021』でも準決勝まで勝ち進んだ男性ブランコ。躍進する2人がニューヨークのYouTubeチャンネルで語っていたコンビ結成までの大学生活の話が面白かった。
2人の「大学生活」を語るときの口ぶりは、これまでポジティブにとらえられてきた「青春」の別の側面に光を当ててくれる。
浦井のりひろと平井まさあきが結成した男性ブランコ。2人の出会いは大学時代、進学した大学は別だったが、2つの大学にて合同で活動していた演劇サークルで知り合ったという。
1年生の前期4単位しか取れず… 激アツ演劇サークルの実態
浦井:僕はお芝居とかやりたいなあというので演劇サークルに入って、いきなり1回生の前期に、2時間のお芝居の主役を任されて
屋敷:浦井が!?
嶋佐:渋すぎるべ…
浦井:そっちにすごい集中しすぎて、(1回生の)前期4単位ぐらいしか取れなかったんですよ
嶋佐:うわっ
屋敷:一回の前期なんて50(単位)ぐらい取らんと
浦井:25単位なんですけど、理系だし取らないとやばい、みたいな
嶋佐:やばいな。だいぶ持ってったね比率
浦井:芝居の方に行き過ぎて
屋敷:めちゃくちゃ熱中してるやん!
「家族に逃げられた哀愁ただようお父さん」という2時間の芝居の主役に、齢18歳で大抜てきされた浦井。しかし、その活動はかなりハードだった模様…
平井:正直、演劇がメチャクチャしんどかったです
浦井:しんどかったです
平井:エグしんどかった…
屋敷:なにが?(笑)
浦井:平日毎日
平井:筋トレもするし
ニューヨーク:ええ!?
平井:ダッシュもするし
嶋佐:ダッシュ!?
平井:「感情解放」とか知ってます? 「ハイ、笑顔!」(って指示が飛ぶと)「わははは」って。面白くもないのに。
屋敷:はいはい。「ハイ、泣いて~」みたいな
平井:そう。しかもそれを真剣に。もうマジでおもんないじゃないですか?
屋敷:(笑)。あ、じゃあ激アツ演劇サークルや
平井:激アツやったよな
屋敷:マジですごいやん。1年で主役に抜てきされるなんて
浦井:それが分からない。なんで任されたんか分かんないですけど
平井:ホンマに、本番1週間前は「小屋入り期間」って言って、授業も出たらダメなんですよ
屋敷:あ~
嶋佐:うわ~
浦井:ま、今まで(講義に)全部出てたら1回ぐらい(出なくても)いいだろみたいな
屋敷:じゃあ数々のすごい人を輩出したりしてる名門とか、ではない?
平井:違います(即答)
屋敷:ああ、違うんや…(笑 うつむく)
浦井:熱意だけが先行型
嶋佐:青春の犠牲者じゃん
屋敷:尾崎(豊)の曲?
一同:(笑)
ここで「青春の犠牲者」というワードを出した嶋佐のセンスがすごい。ムダでコスパの悪いことに偏執狂的に注力することを、逆説的に寿ぐ文化。人はそれを「青春」と呼ぶ。しかし、あまりに過剰に、日常生活に支障が来すレベルで「青春」に身を捧げることは、すでにもう「犠牲者」になっているのかもしれない。
これだけがんばったのに「幕が開いたら4人」の衝撃
平井:ホンマに悪く言うわけじゃないですけど、言いたいのは、そのときに大学生とかで、もしプロとかを目指すのであれば、俳優さんとか、絶対に切り替えをできるようにしたほうがいいと思います
屋敷 オンオフを?
平井:結構アツくなってる人って、普段から役に入ってるぐらいの人がいるんですよ
屋敷:マジで? 大学生で?
平井:はい。だからほんと、何見せられてるんや? ぐらいの。「バカヤロー! お前!(殴るジェスチャー)」パン みたいな
嶋佐:え、普段?
平井:ええ、芝居以外でダメ出しとかのときに「何やってんだよー! バーン!」(殴るジェスチャー)
屋敷:ふははは。え、まじで?
嶋佐:やばいね。怖っ!
平井:「普通こんなんやる?」っていう
嶋佐:みんな様子がおかしかったんだ
屋敷:で、お芝居をやるの? 公演、1週間ぐらい
嶋佐:それってお客さんいるの?
浦井:これが、幕が開いたら4人とか
ニューヨーク:(笑)
浦井:それが、ショックというか、「辛っ!」って…
平井:これで「お客さんを入れることの大切さ」を知りました
屋敷:あー、なるほど、芸人になる前に。「なんなんこれは?」っていう
平井:その4人も、顧問の先生とか友達とか
屋敷:(笑)。めっちゃおもろいやん!
嶋佐:こうなってる(集中してる)から誰も気づいてないんだろうね。やってることのおかしさに
平井:告知っていうか…。(芝居の)クオリティをあげるっていうのは、もちろんなんですが…
屋敷 これおもろいな。これ『アメトーーク』でいけるんちゃう? 「大学演劇芸人」。 ゾフィーの上田(航平)さんとかもそうやん。
平井 これはちょっと言えますよ。結構食らったもんな
単位を犠牲にしてまでがんばったのに、わずか数人にしか観られなかった芝居。
これが体育会系の部活やサークルとのちがいだ。スポーツはパフォーマンスのことだけを考えればいい。客足が悪かろうが、それはマイナースポーツなら当たり前だし、なにより好成績や勝利、優勝という結果が自分を慰めてくれる。
一方、演劇の場合は、芝居の良し悪しとともに、いかに客(≒友人・知人)を動員するかにも頭のメモリを割かなければならない。いくらクオリティの高い芝居も、誰も観ていないなら「存在しない」ことと同じだ。
浦井は「開幕4人」のショックが大きく、最初の半期を持って演劇サークルから身を引く。一方、平井は文化祭でのコントはやり続けたいということで、引き続き籍を置き続けることに。しかし、平井は平井で新たな受難が待っていた。
演劇サークルを辞めてもさらに続く受難
平井:文化系サークルをまとめる役職みたいなのに就いて、辞められないっていうのもありました
屋敷:あーなるほど。実行委員長みたいな感じ?
平井:だから辞められないっていうのはありました
浦井:文化サークル長っていうのに
嶋佐:じゃあ、マイペースにやれたんだ。コントだけをやってた感じ?
平井:はい。そっち(演劇サークル)に関してはコントばっかりできててよかったんですけど…でも文化サークルが激しんどでした。週3回通って…
屋敷:何がしたいんおまえ(笑)大学おらんで
浦井:(平井は)やりたくなかったんですよ!
平井:やりたくなかった!(笑)
屋敷:せめて就活に活かすとかやったら分かんねんけど
嶋佐:辞めなよそれも…。しんどかったら
前任者が飛んだことでやらざるを得なくなった役職に平井が苦しめられていた頃、演劇サークルを去った浦井も、脱線した大学生ライフを元の航路に修正することはできず。さらにさらに脱線していくことに…
屋敷:浦井は何してたん?(平井が)激動の大学生活してるときに
浦井:最初の4単位(しか取れなかったこと)が響きすぎて、全く勉強についていけなくなったんですよ。自分の大学に正直行かなくなったんですけど、高校生のときからアカペラバンドをやってて
屋敷:やってたな(笑)
浦井:そん時、一緒にやってた友達が同志社(大学)に進学して、同志社のアカペラサークルに入ってたんですよ
屋敷:同志社、有名やもんな。アカペラサークルいっぱいあるもんな
平井:もう300人ぐらい? 100人?
浦井:100人
屋敷:名門や
浦井:で、100人ぐらいいるけど、ベースがおらんと。だから「アカペラサークルに来てくれ」って言われて、僕、自分の大学には行かんと、同志社のサークルばっかり通ってました
屋敷:うわっ! 一番意味のないことを(笑) 本当の青春やってるやん。
で、卒業したん?
浦井:僕は中退しました
平井:僕は卒業しました
屋敷:ふははははっ 同志社のアカペラサークル行って…(笑)
嶋佐:どっちも散々な大学生活(笑)浦井:(笑)ろくなことできなかった
屋敷:ほんとにヤバいな。浦井がヤバいやん。マジで
嶋佐:浦井がヤバいな
浦井は他大学の4つのアカペラサークルを掛け持ちしたすえに中退。
一方、平井の方も卒業はできたものの、在学中は、早朝の時給750円のコンビニバイトで糊口をしのぎ、大学に行くと文化系サークルの会議を開くというほぼ毎日のルーティンに嫌気が指していた。
平井:正直、僕、大学楽しくなかったですよ。結構しんどいことしかなかったです
屋敷:(笑)そんなやつおらん…。ブラック企業入ったやつみたいだ(笑)
平井:彼女おらんかったですし、毎日会議
屋敷:あっはっはっはっは! でも(普通は)それが楽しいからやんねんみんな
平井:マジで楽しくないですよ。周りの弁の立つ奴が「だり~よ」とか言ってるのをなだめて会議を始めたり
屋敷:課長みたいな顔してたんや
嶋佐:全然やりたくないのに
平井:全然やりたくないのに週3で
「本当の青春」とは「青春の犠牲者」になること
浦井は自分がベースとして携わっていたアカペラメンバーが次々就職を決めていく中、一人だけ就職が決まらず、大学も卒業できず。散々だったが、そのころ夜中のBSでラーメンズの単独公演を目撃。「こんなことができたらいいな」と思ったことを機にお笑いの道を志すことになり、紆余曲折を経て平井と合流することに。
コンビとして知名度が上がりつつある現在を結果としてとらえると、とてもポジティブに感じられてしまうが、平井がはっきり、しっかりと「大学楽しくなかったですよ。結構しんどいことしかなかったです」と言ったのが印象に残る。
2人が明かしたのは「青春」の語られない、語られるべき部分だ。「青春」とは、男女が集団で一斉にジャンプする写真や、海辺で『ONE PIECE』の片手を上げるポーズを真似した写真をSNSのヘッダーに設定することではない。
そんなキラキラした「青春」はほんの一握りで、きっと大部分の「青春」は、もっと辛くて、酷く、無意味で、コスパが悪く、惨めなはずなのだ。
「青春の犠牲者」か、それとも「本当の青春」か――そのどちらかではない。実は同じことなのだ。「本当の青春」とは、そんなふうに「青春の犠牲者」になることなんだと思う。