いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

トム・ホランドの“奥手演技”が光るSF映画『カオス・ウォーキング』

Chaos Walking (Original Score)

MCUにおいてトム・ホランドが演じるピーター・パーカーといえば、スパイダーマンとして日夜NYの平和を守るヒーローでありながら、素顔に戻れば奥手な高校生。蜘蛛男としては事件現場までひとっ飛びなのに、自分の恋路は牛歩牛歩でなかなか前に進まないことがお約束。そんなトムの“奥手演技”が光るのが、今日から公開の映画『カオス・ウォーキング』だ。

なにせ、今作でトムが演じるトッドは交際経験がないどころではない。生まれてこの方、女性を見たことがないのだ。

西暦2257年、〈ニュー・ワールド〉。そこは、汚染した地球を旅立った人類がたどり着いた〈新天地〉のはずだった。だが、男たちは頭の中の考えや心の中の想いが、〈ノイズ〉としてさらけ出されるようになり、女は死に絶えてしまう。この星で生まれ、最も若い青年であるトッドは、一度も女性を見たことがない。

映画『カオス・ウォーキング』公式サイト

野郎ばかりの星<ニュー・ワールド>では、未来の話なのに移動手段はなぜか馬で、アメリカの過酷な西部開拓時代の再現しているように思える(実際に、当時のほとんどのカーボーイは女性と関わることなく一生を終えたとされる)。おまけに、男たちはお互いの心の声=<ノイズ>だけ筒抜けって、もうそれ誰得なんだよという初期設定だが、そんな<ニュー・ワールド>にいろんな意味でスターウォーズ続三部作を“脱出”してきたデイジー・リドリー扮する宇宙飛行士ヴァイオラが降り立つ。

生まれて始めて女性を見たトッドの慌てぶりは、中高一貫の男子校から大学に入った男子大学生が、新歓コンパでいきなり生の女子と6年ぶりに対面したときを思い出してくれればいい。あれである。

案の定、ほれてまうやろーなトッドだが、しかも相手には自分の心の声が筒抜け。トッドの「ほれてまうやろー」という<ノイズ>を聞くたび、デイジーがする「なんだこいつ」という怪訝そうな表情は、Mっ気のある観客にはご褒美かもしれない。

その後、<ニュー・ワールド>唯一の女性となったヴァイオラを巡って争いが起き、2人の逃避行が始まる。話はでっかいでっかい風呂敷を広げていくのかと思いきや、そうでもない、微妙な規模のサイズ感に収束するが、そんな中でもトムの奥手の演技だけは光る。彼以上にトッドをトッドらしく演じられる人材はいないのではないか、というぐらいハマっている。

なお、トッドは、<ノイズ>が相手にバレたらやばいピンチで事あるごとに「俺はトッド…俺はトッド…」と脳内で無意味な思念を広げて本心を隠そうとするが、「俺はトッド」しか作戦がないから、相手には「こいつ、何か隠しているな」ということがバレバレだよ! 作戦が少なすぎるよ!

ちなみに、<ノイズ>の設定は、「男性が何を考えているかなんて女性には全部お見通しなのではないか」という、若かりしころ一部男性が感じていた“女性恐怖”の戯画なのではないかと深読みできる。つまり、この<ノイズ>という設定の背景には、男性が何を考えているか、ではなく、男性にとって女性はどういう存在なのか、を指し示す鍵が隠されているのではないだろうか。このことを考えながら、後半の展開を見ていくと、なかなかブラックで興味深い。

 

音声も<ノイズ>もどちらも字幕で受け取らなければならない日本語話者にとっては、なかなか高カロリーな映画であるが、字幕は最大限がんばってくれていると感じた。字幕をとおしてでも、<ノイズ>を通して起きるハプニングやギャグっぽいところは笑えた。

<ノイズ>の設定が必ずしも上手く活かされているストーリーかというと、そういうわけでもない。設定とストーリーが掛け算というより単なる足し算に終わっており、「ただそういう設定だっただけ」「ただそういうストーリーだっただけ」で、あまり相乗効果は生み出せていない。しかし、『ノー・ウェイ・ホーム』まで待てないよ、というトムホファンはとりあえず繋ぎとして観ておいて損はないだろう。トッドは確実にピーターの延長線上にいるキャラクターなのだから。

 

映画『カオス・ウォーキング』は11月12日より全国公開。