風俗嬢に関するレポートは数多くあるが、その多くがジャーナリストと名乗る人によるもので、精神的、物理的に対象にどんな接近しようと、所詮は外側からのものである。
本書は、性風俗産業にこれでもかというくらい接近した場所から書いている。なにしろ、風俗店に勤め、店長を任され、店の脱税にまで加担した男による著作なのである。赤澤竜也による本書『お客さん、こーゆーとこ初めて?』は、風俗店の店長をまかされた著者が、風俗嬢やお客、経営感覚の狂った経営者や、しのぎをたかるヤクザ、なにかと処罰しようとする警察らとの濃密な日々を書いた一種のルポタージュだ。
絶対にご法度とされている「本番」をやったやってないで繰り広げられる人気店員との口論、人気の人妻風俗嬢につきまとうストーカー客の追及、税務署との緊迫した攻防まで、優良な企業では考えられないようなさまざまなエピソードがちりばめられている。書かれてある内容自体が風俗に疎い読者にとっては物珍しいが、関西育ちで培ったのだろう著者のお笑いセンスと、さすが慶応仏文学科(!!)卒というエスプリが効いた軽妙な文章は、それ抜きにしても読みごたえある。
バカ話もさることながら、「なぜ売春業が疎まれるか」という問題の本質を射抜いた文章も鋭い。著者は一時、風俗店の「近代化」に挑戦し、挫折したという。風俗を取り締まる法律はあいまいで、官憲側が生殺与奪をにぎっている。著者はそこに、人間の性という業を癒やすための性風俗産業を温存させながら、「見えないところで細々とやって欲しい」と囲い込もうとする、市民社会の欺瞞を嗅ぎ取る。
さっきまで笑いながらページをめくっていたのに、いつのまにか眉間にしわを寄せて唸ってしまっている、そんな不思議な味わいの一冊。