偏屈だがその腕はピカイチという鑑定人の男が、電話である女から両親の遺品の鑑定依頼を受け取る。失礼な扱いをされ、一度は依頼を断りかけた男だったが、ミステリアスな女に次第に心惹かれていく。というのもその女は、一度も男の前に姿を現そうとしないのである。『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』のジョゼッペ・トルナトーレ監督最新作。
フジテレビ「ハンマープライス」のころから競売好き(競売の光景が好き)な個人的にはたまらない映画。もうすこし骨董品や競売について、奥行きある描き方をしてほしかったが、その点はあまり不満は無い。
ベタではあるが、この映画は愛の所有をコレクションの所有を引き合いに出して語っている。主人公の男は鑑定士/競売人であると同時に、女性の肖像画のコレクターでもあることからも、それは明白だ。
コレクションは、集めることそれだけで楽しい。しかし、一度コレクションを手に入れてしまえば、今度は失ってしまう怖さが生まれる。それは、コレクションにする前には存在しなかった感情である。手に入れる喜びを知ったからこそ、失う不安が生まれる――それが所有にまつわる根本的なジレンマだ。
一方、愛についてはどうだろう。愛についてもわれわれは所有の原理で考える。相手の心を奪えるかどうかに一喜一憂し、実際に奪えたそのときこそが、甘美な瞬間なのだ。けれど、一度奪ったはずの心を失った時、それは何もなかった最初に大きな失望をもつのだ。
憧れのままで終わらせていたら、そんな気持ちは味わわなくてすんだだろう。手に入れたからこそ、その後の喪失の絶望はより深い。
映画でリフレインされる「どんな贋作の中にも本物がある」という謎めいた言葉は、失恋した者は幾度となく繰り返しているかもしれない。そう、あの時のあの人の愛だけは本物だったはず、と。その問いかけも、今となっては意味をなさないのだが……。
サスペンスと銘打たれているが、おそらく多くの鑑賞者は途中で結末に気づいてしまうのではないだろうか。それくらい凡庸で、結末はある程度予想ついてしまう。
しかしそれでも、絵画を「アニメ」、競売人を「アニオタ」に変えれば、そのまま通じるような構造に、日本で支持される可能性はある。
また、おんとし62歳のジェフリー・ラッシュ演じる主人公の怖くすらある「リアクション芸」で、やや長めのクライマックスももつ。
詳しいスペックは明かさないが、この主人公は相当な「こじらせ系男子」である。『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督の名にたがわない、新たな「こじらせ系男子映画」が誕生したといえる。