いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】バーニー みんなが愛した殺人者 ★★★☆☆

スクール・オブ・ロック』の監督と主演ジャック・ブラックが再びタッグを組んだサスペンス映画。アメリカはテキサス州カーセージで実際に起きた殺人事件を映画化している。

単刀直入にいうと、めちゃくちゃいいやつがめちゃくちゃ嫌なやつを殺した――さて、これは罪に問われる?という話だ。
何をいう、どこのだれがやろうと殺人は殺人、罪は罪だ、とあなたはおっしゃる?
ほう。さすが当ブログの読者は品行方正ですな。
では、そのめちゃくちゃいいやつとめちゃくちゃ嫌なやつがどちらもあなたの知人だとしたら、話はどうだろう?
映画が描くのは、みんなから総スカンを食らう嫌われ者を殺したみんなから愛される人気者バーニーに、無罪にするべきだとの声があがったという話。映画は、事件の顛末を複数の街の住人の証言を集めながらに浮かび上がらせていくフェイクドキュメンタリの手法をとっている。


小難しい話をすれば、この映画はサンデル先生的なところもある。
マイケル・サンデルは哲学的にはコミュニタリアン共同体主義者)という立場に属している。これは、外から見たらどれだけ異質だろうと共同体内部にはその共同体特有の「善」があるという思想だ。極端な話をすれば、ある殺人者が無罪であるということも、共同体の善になりうる。
これに対立するのは、マシュー・マコノヒーが演じるテンガロンハットをかぶった地方検事。彼は当然バーニーを追及するのだが、彼の立場が象徴するのは、どこの誰が罪を犯そうと公正に裁かれなければならないという思想である。サンデルとの対でいうと、彼はロールズの側に立つ。

さらに、宗教の影響も見逃せない。この映画をみていて面白かったのは、宗教がつねに感情の側に立っているというところだ。裏を返せば、神とは見たくない現実と対峙するときに利用されるアイマスクみたいなものなのかもしれない。


ただ、映画としてはややものたりなかったか。
というのも、先にのべたように本作は街の住人の話を聞くフェイクドキュメンタリなのだが、この手法をとった理由がイマイチよくわからないのだ。裏を返せば、この手法をうまく活かしきれていない。
というのも、住人の証言は話の筋を追っているだけにすぎないからだ。話に裏付けをしていることはたしかだが、彼らの話の中に微妙なブレや食い違いがあり、それが事件にまた別の見方を与えていく……というようなドキュメンタリならではの怖さというか醍醐味というのは、この映画にはほとんどない。彼らの話はほとんど最初にできた対立軸をなぞっているだけで、それは単調であり退屈だ。
もっとも『スクール・オブ・ロック』の監督がそのような資質ではないというのは、予想できたかもしれないが……。

スクール・オブ・ロック [Blu-ray]

スクール・オブ・ロック [Blu-ray]