- 出版社/メーカー: 角川映画
- 発売日: 2010/08/27
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ナレーションが多用され、情熱的なバルセロナでの恋愛が描かれるわりに客観的で淡泊な印象を残す今作なのだけれど、これはおそらく監督が意図したものだ。
というのも、この映画は恋愛映画ではなく恋愛への一つの考察なのだ。
理性的なヴィッキーと情熱的なクリスティーナ。2人は旅先のスペインで1人の男と出会う。
ここで興味深いのは、ストーリーが進むにつれ情熱的で自由奔放だったはずのクリスティーナが貞淑で寛容な女に、そして本来計画的で堅実は女であったはずのヴィッキーほど、不実な恋に突き進んでいってしまうのだ。
ここにあるのは、恋は人柄をも変えてしまうというような甘ったるい教訓ではない。
ここで注目したいのは、2人が同じ男に恋をしているものの、彼女らはそれぞれ別の三角関係の問題に直面しているということだ。
恋において性格が変わってしまった彼女らは、もともとそういう性格だった上で、そのような三角関係に晒されているわけではない。
まったく逆だ。つまり、人柄というのはその人が置かれている人間関係の中で変わってしまう――そのような、構造主義的で非常にドライなこの監督の人間理解が、ここには含まれている。
この映画でアカデミー賞助演女優賞を獲得したペネロペ・クルスは、賞に違わぬ名演で圧倒的な印象を残す。有り体にいえばスペイン産メンヘラなのだが、来日した時に冗談でデートをもちかけてきた蝶ネクタイのアナウンサーに害虫を眺めるような嫌悪の表情を隠さなかった彼女が演じれば、この役が彼女の「素」なんじゃないかというリアリティをどうしても感じてしまう。ちなみに、この映画で共演したアントン・シガー、もといハビエル・バルデムとは2010年に結婚している。
ウディ・アレンの映画といえば露悪的なニューヨーカー描写がたまらないのだが、その手腕はこの映画でも炸裂している。ニューヨーカーを偏狭で、俗物で、ダサい人間に描くことにおいて、彼の右に出る者はいないんじゃないだろうか。
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