いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】クラウド アトラス ★★★☆☆

マトリックス』のウォシャウスキー兄弟(→姉弟)らによる約3時間におよぶSF大作。
19世紀から24世紀にかけての、6つの時代を舞台にした6つのストーリーを、主演のトム・ハンクスをはじめ、出演者らが1人6役で演じている。


おそらく初見ですべてを完全に把握することは不可能に近い。ぼくは上の6つのストーリーという情報も欠いた状態で見始めたので難儀した。
映画は、6つの物語を同時並行的に語っていく。最初だけは時代設定を字幕でしめしてくれるからいいものの、それ以降はほとんど何の断り書きもなく時代をいったりきたりするので、大変頭を使わされる。


http://matome.naver.jp/odai/2136331945701324701

こちらのまとめにあるように、見た人の9割が再度鑑賞したいと言っているようだ。この調査にケチをつけるつもりはないが、これはたぶん「もう一度観たいほどよかった!」という満足の声だけではない。
「ん?あのシーンよくわからなかったからもう一度確認したい」というチェックの意味で「もう一回みたい」と言っている人も、相当数いるんじゃないだろうか。
だから、もう一度観たくなるほどの「名作」という意味ではなく、「全てを把握しにくい映画」と理解した方がいいだろう。個人的には、わかりにくくしてリピーターを呼ぼうというような風潮はあまり好ましくない。世には、『グラン・トリノ』みたいな誰もが初見でおおよそを理解でき、かつ大名作というものもあるのだから。確認だけならDVDでもできる。


そのような細部に隠された謎解きにばかり目がいきがちな今作だが、作り手らの主眼にあるのはもっと抽象的、形而上的な熱いメッセージだ。そしてそれは、おそらくこの映画を観た誰もが理解するところだろう。というのも、劇中人物がぽろっと言っちゃっているからだ。
公式サイトでも書かれていることだが、これは輪廻の話なのだ。壮大な歴史の中で、強い想いは時代を超えて受け継がれていくという、ちょっと背中がこそばゆくなるような青臭いメッセージが込められている。
このような話に『マトリックス』の監督らがハマるというのはよくわかる。なぜなら『マトリックス』だって、よくよく観てみれば非常に宗教色の強い、形而上的な話だからだ。今作の近未来パートでも発揮されたようなエッジの効いた絵面とは裏腹に、この人達の映画にはつねにナイーブな人類への期待が込められている。


んで、ここで一つ疑問なのだが、冒頭に書いたとおり主演のトム・ハンクスをはじめ、主要な役者陣が6役をこなしているのだが、まず輪廻や前世というのは、顔が似ているとかそういうことじゃないんじゃないだろうか。
これは資金難による苦肉の策ということなのかもしれないが、それにしても、ペ・ドゥナの西洋人特殊メイクは、気を抜いていた分余計にギョッとした。特に彼女は、非常にアジア的なのっぺりとした顔立ちで、それが可愛いのだが、そこから特殊メイクの力技でグイっと西洋人に仕立て上げようとしているのだから、余計グロい。あそこまでして彼女に西洋人を演じさせた意味はよくわからなかった。


先に書いた通り、すべてを一度で絵解きするとは困難な作品だ。
一人で行って悶々として帰ってくるのもよし、複数人で行った帰り道であーでもないこーでもないと議論するもよし。
観賞後に楽しく困れる一作だとは断言しよう。


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