- 作者: 中村淳彦
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2005/09/30
- メディア: 文庫
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思春期を通過した男ならだれしも、そのほとんどがお世話になっているであろうアダルトヴィデオ。本書は自身エロメディアでの就業経験を生かしてライター活動をしている著者による、AV女優さんへのインタビュー集、その第二弾だ。だが彼がマイクを向けるのは、華やかな表の舞台を闊歩する人気女優などではない。どぎついプレイが求められる通称「企画物」にしか出番のない、それこそ見る者に名前を覚えられない「名前のない女」たちだ。
どの章でもいいから、一度読んでみるといい。壮絶だ。
撮影現場の控え室で顔を涙と鼻水まみれにしながら自分を血の通わない「物」だと思い込み、なんとか撮影に耐えようとする子や、高校卒業後暇をもてあましていたら、母親から「アンタ、暇ならお水か風俗やれば?」と「提案」された子。さらには、小指が両手ともすでにない父親の作った借金を、自分の体で返済しようとする子もいる。「幸福な家庭はみな似通っているが、不幸な家庭は不幸の相もさまざまである」と書いたのはトルストイだが、彼女らの語る不幸な生い立ちも多種多様だ。しかし、ほとんどの子に共通するのは「お金が欲しい」という願望とそして、「やりたいことがない」という漠然とした悩みだ。
そんな彼女らを見つめる著者の立ち位置は、少し曖昧だ。ある子のAV女優としてのプロ意識に尊敬することもあれば、その人生のあまりの無計画ぶりに呆れかえることだってある。時に、見るに堪えずに「この仕事やめなよ」と言いかけてしまうことさえする。
「エロで飯食ってるくせに今さら善人ぶるなっ!」と、著者のその姿勢を非難するのはたやすい。だが忘れてならないのは、そんな自己矛盾をはらみながらも取材を敢行した彼のこの仕事がなかったならば、僕らは一生彼女たちの底の見えない井戸のような絶望の深さを知り得なかった、ということだ。そして今でも、僕ら読者はその「深さ」を体感できていないでいる。僕ら男ができるのは、せいぜい薄っぺらい同情だけだ。だってこの業界は、男の「性」に「お金」というスパイスをまぶしてできあがっているようなもんなんだから。