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【書評】デフレ化するセックス/中村淳彦

デフレ化するセックス (宝島社新書)

デフレ化するセックス (宝島社新書)

内容紹介
一人暮らしする独身女性の3人に1人が貧困状態(年間の可処分所得112万円以下)にある現代の日本。「性風俗」や「援助交際」は、非正規雇用で低収入のまま働く女性たちの「副業」として一般化している。女性の著しい供給過多により、風俗店では応募女性の7割が不採用、20~30代女性の半分は売春しても1万円以下――腹をくくってカラダを売る道を選んでも、安く買い叩かれ、もしくは買い手がつかず、貧困から抜け出せない現実がある。本書は現代の性風俗援助交際を知る入門書であると同時に、カラダを売る女性たちから、現在の社会を読み取ろうという試みでもある。


デフレ不況期に、タイトルに「デフレ」とつく書籍が書店にも散見したが、まさかセックスにまで「デフレ」がつこうとは。本書は、「おねマス」からはかけ離れた、無名のAV女優たちにインタビューを行う『名前のない女たち』シリーズの著者が、ネットが普及し、デフレ不況下にあった2010年現在のセックス産業の状況を描くルポタージュ。性風俗店の従業員やAV女優、個人売春を営む女性へのインタビューなどをもとに、各種性産業の(主に苦しいといえる)収入の状況を考察している。


本書が明かすのは、ネットの普及や経済不況により、セックス産業の「デフレ化」した実態だ。特にネットは、女性の参入障壁を低くしたことによる供給過多や、無料で閲覧できるエロ動画の氾濫によるAVの販売不振など、セックス産業にはかなり影響があったようだ。


供給過多の市場の中では、若さと美しさが女性を格付けする基準として、より一層効力を発揮する。
本書の中で特に興味深いのは、各種セックス産業の職業別に、女性の採用難易度を偏差値化した一覧だ。超難関といえる偏差値80の単体AV女優から、偏差値48以下の超格安ピンサロや違法風俗店まで、14種類の職業をずらりと序列化し、その収入の相場を記している。取材を元にした著者の独断ではあるが、これが面白い。
セックス産業にも、厳然としたヒエラルキーがあることがわかる。本当に稼げるのはごく一部で、例えばAV女優としてまともに生活していくだけのお金を稼げるのは、応募者のうちの3%なのだという。7割が落され、残り3割の中でもAV女優のみで女性の平均年収を稼ぎだすのは一握りなのだ。「出演すれば大金が転がりこむ」という一般的なイメージと実態は、こうもかけ離れている。


本書を読んでいると、セックス産業においても女性が二極化しているように思える。皮肉なことに、若くて魅力的でさらに高学歴と、売春する必要がないようにみえる女性らが自らの意志で性を売り、かつ高収入を得る一方で、食うに困るほど経済的に困窮している女性は、セックス産業の中でも最下層で苦しんでいるというのだ。
というのも、売春を迫られるほど追い込まれている女性ほど、何らかの問題を抱えている。周りの人間とよい関係を構築できず、意識も低い。生活が荒み、次第に外見へのメンテナンスも怠っていく。そうした女性は当然、性の買い手からしても魅力的には写らず、高い報酬は得られない。彼女らにとってはセックス産業に携わるのは結果であり、原因はもっと別の何かであったりする。


名前のない女たち』のころから続くが、本書の中にも、どこから見つけてきたんだという壮絶な女性への取材が並ぶ。
境界例の疑いがあり、同居する彼氏にリストカットよりはマシだからという理由から売春を容認されているという女性も出てくる。彼女のような精神疾患やコミュニケーションに難がある女性も、当然多くは稼げない。
若さと美しさがなければ買い叩かれる世界ーー改めて「手に職」という言葉の重要性が身に沁みる。
後半では、援交を含む個人売春を営む女性に注目するが、こちらは収入以上に何よりも身の危険と隣り合わせにあることがよくわかる。


困窮するインタビュイーを軽蔑した著者の書きっぷりも相変わらずで、読んでいて気持ちのよいものではない。売春そのものに著者が批判的なのはわかるのだが、それとわざわざ仕事に協力してくれる取材対象者への敬意は別ではないだろうか?
それを鑑みても、「性の商品化」に反対の人も賛成の人も、性風俗で働いてみたい女性も利用してみたいという男性も、はたまたネットで違法の無料動画を消費しているそこのきみも、一読しておくのに損はない一冊だろう。