フィクションでは空腹、喉の乾きといった「渇望」の表現は、今まで無数に描かれてきた。しかし、空腹や喉の乾きと同じぐらいぼくらの身の回りにあるにも関わらず、あまり深くは描かれてこなかった「渇望」のジャンルがある。それは「眠り」である。
本作『AWAKE/アウェイク』はその名のとおり、全人類が突如として「眠たいのに眠れなくなる」、という奇想天外なアイデアのSFスリラー。その中で、主人公のシングルマザーの娘だけは、なぜか眠れるという。全人類的不眠症の謎を解決するため、主人公は娘を拠点(ハブ)まで連れて行く冒険を選ぶ。
この設定の妙は、「すぐにはパニックが訪れない」ということ。モンスターや大津波のように、わーわーみんなが逃げ惑うわけではない。すぐに誰かが死ぬわけでもない。しかし、「眠りたいのに眠れない」という恐怖は、静かにでも確実に迫ってくる。一晩たってから、人々は徐々に徐々に異常をきたしていく。
冒頭で書いたように、空腹、喉の乾きと同じぐらい「眠たい」ことの辛さは誰にだって分かる。だから、3日、4日、5日と経過してからの主人公たちが青白くなり、朦朧とした姿は、めちゃくちゃ分かるし、だからこそ怖くなってくる。
もっとも、この映画について正直なところ、ネット上での評判は芳しくない。主に、「眠れなくなった理由が納得できない」とか「終わり方が微妙」といった声だ。
しかし、ぼくはそうした理由や結末の拙さ、物足りなさより、そこへ行くまでのプロセスにおいて大いに楽しませてもらった。本作はいわば「人類が眠れなくなったら何日でぶっ壊れるか」というシミュレーションだ。作中では、人間は眠らないでいると脳が腫れて膨張していき、判断力を失い、約1週間で二度と目を覚まさなくなるという。すなわち死だ。つまり、人類にとって「眠れない」というのは時限式爆弾みたいなもんなのだ。
拠点へと主人公たちが迫るにつれて、さまざまな「眠たすぎて狂った人々」と出くわす。その「眠れなくておかしくなった人々」バリエーションも観ていて楽しい。主人公たちの乗った車が、眠れない民衆に囲まれて立ち往生する場面がある。そのシーンで気づいた。それはまるでゾンビ映画の光景なのだ。そのとき、もしかしてこの映画は2徹、3徹した人がゾンビみたいに見えたところから着想を得たのではないか、と勘ぐってみたり。
クライマックスにかけては、もはや患者から医者まで全員感染者のパンデミック映画のような様相を呈していく。この手の映画にはお約束の狂乱や、眠れるようになる意外な方法など、終盤にたたみかける展開も飽きさせない。「眠たいのに眠れない」、ただそれだけできついということを本作で痛感すれば、夜ふかしをする人も減るかも?