いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

ウエストランドにニューヨーク “まだ売れてないお笑い芸人”YouTubeが魅力的な理由

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お笑い芸人のYouTubeがここ1年ぐらいで激増しているけれど、一口にお笑い芸人のYou Tubeといっても2種類があると思う。「売れている芸人のYouTube」と「まだ売れてない芸人のYouTube」だ。前者と後者でははっきりいって魅力がまるで違う。

 

何かが「売れている芸人のYouTube」にあって、「まだ売れてない芸人のYouTube」に足りないわけではない。事態は全く逆。「まだ売れてない芸人のYouTube」にこそあって、「売れている芸人のYouTube」にないものがある。

それは、お金がないことに対する絶望感と、売れることへの渇望だ。

 

「売れている芸人」にできないことが1つだけある。「売れないこと」だ。マスメディアに出演する枠はある程度決まっており、そこに出られているという時点で成功してしまっている。
以前、批評家の小谷野淳氏が「2ちゃんねる」について、書き込む人間が絶対使わない罵り言葉に「卑怯者」がある、なぜなら全員匿名の卑怯者だからだ、みたいなことを書いていたが、それと同じ構図で、テレビやラジオに出ている時点で「ビンボー自慢」や「売れてない自慢」はできない。そこに出ている時点で成功しているし、そこそこの収入を得ているからだ。

「貧乏話」や「売れてない頃の話」ができたとしても、それは「昔話」であったり、まだ売れてない後輩芸人などの「他人事」という間接的なものであったり、生々しさと切迫感に欠ける。

昔であれば、ラジオがその受け皿だったんじゃないかと思う。誰が聴いているんだというド深夜帯の番組を任されたところからスタートし、徐々にステップアップしていき、夜の10時や深夜1時へと「昇格」、というのが流れだった。最近だとANNの三四郎なんかがそう。

でも、深夜のお笑い芸人枠はここ最近ずーっと同じメンツだし、さらに今はあらたに「売れているYouTuber」という強敵が現れて、「まだ売れていない芸人」の枠がどんどん狭まっている。

 

「売れている芸人のYouTube」は、おもしろくないとまでは言わないけれど、はっきりいえば、テレビやラジオの延長線だ。

 

その点、「まだ売れてない芸人のYouTube」は、テレビやラジオではほとんど流れることがないコンテンツ。とりわけその魅力は、出演者が本音が露出する「フリートーク系」の動画に凝縮される。

 

ここで紹介したいのは、爆笑問題で知られるタイタン所属のお笑いコンビ・ウエストランドYouTubeラジオ「ぶちラジ」だ。

ツッコミの井口、ボケの河本からなるこのコンビ。元嫁と同じ岡山県津山市出身ということだけに興味を持ち、大して期待もせずに聴き始めたのだが、井口のひたすら他罰的で恨みがましいしゃべりと、河本のボケなのにお笑いの才能がないというキャラクターが面白く、最近仕事しながらずっと過去回を聴いている。 

 

M-1で準決勝に進出するなど、そこそこの成績をおさめ、お笑いファンでも知る人は少なくないと言えるのだが、それでも、このランクのお笑い芸人が食べていくのはかなり厳しい。 

そんな2人が自分たちの「貧困」とマジで向き合っているのが、下に貼った2017年配信の#268だ。

 

井口 普通ラジオって、「(TBSラジオ)JUNK」はもちろんのこと、「オールナイトニッポン」とか、2時間普段のことを話されるじゃないですか。

河本 近況報告とかね。

井口 いわゆる近況報告とか。こういう仕事して…海外ロケでこういうことがあった…とか。だいたいそういう話でしょ。あと、プライベートでゴルフ行って…とか。
河本 華々しい私生活。

井口 そのシステムで「ぶちラジ」をやるとなるとんでもない、おどろおどろしい内容になるじゃないですか。

河本 一般の方を下回ってるわけですからね。

井口 それがなかなかないんだよな。普通こういうのって、一般の方より上の水準の話をするわけでしょ。

 

 

 

そんな風に語りだしたこの回は、ツッコミの井口が、手違いで家賃5万円の未払いを犯してしまい、危うく追い出されそうになった、というトラブルの報告から始まる。管理会社の恩情で分割で未払い分を支払うことになったが、翌月の支払いが7万円であるのに対して、その月の給料が6万円だったという絶望的な状況だ。

 

ここから、河本が給料の少なさから夫婦喧嘩をした、などと、およそ「TBSラジオ JUNK」や「オールナイトニッポン」やでは聴くことができない、「正式に終わってる(河本)」リアル底辺ドキュメントがひたすら続く。

そして話はここから「お金がない」というのはただ単に「お金がない」という量的状況だけを指し示しているわけではない、という話題に移っていく。

 

河本 (お金がなくて)マジでイライラするよな。ずっと最近。

井口 イライラするというか何にも考えられないんだよ本当に。一回これぐらいみんななってみ? もう脳の9割9分が「お金がない」という恐怖で、家に入った瞬間震えが止まらないんだよ。それでこういう、「ぶちラジオ」とかお笑いライブで気を紛らわせてるだけですからね。

河本 大きい声出してね

井口 家に帰った瞬間、震えて、どんなに暑い日でも布団にくるまってすごさなきゃいけないわけで。

河本 関節も痛いし

井口 動けなくなって。なんかやりゃあいいんだけどやれなくなって。お金がなかったら動けない。悪循環ですよ。お金があったらもうちょっと動けるんですよ。お金があることにより身体が稼働するんですよ。お金の数ですからね、可動域って(笑)

河本 金持ちはぐにゃんぐにゃん

井口 (笑)

 

途中まで「ザ・ノンフィクション」か何かの貧困ドキュメントですかという空気感で、聴いている側もどんどん気持ちが沈んでいく内容だが、引用の終わりの方で笑いを交えることで、かろうじて「お笑い芸人のYouTube」へと再浮上する。

これぐらい金に切羽詰まっった状況の会話は、テレビやラジオでは聴くことはできないだろう。くどいようだが、テレビやラジオに出ること自体が、こうした貧する悩みから離脱することを意味するのだから。

それがなせるのは、YouTubeという、「まだ売れていないお笑い芸人」に接続できる貴重なメディアだからこそ。

 

お金という直接的な悩み以外にも、「どうすれば売れるか」という課題が、「今そこにある課題」として話し合われるのも、「まだ売れてないお笑い芸人のYouTube」の魅力だ。

iincho.hatenablog.com

 

以前紹介したニューヨークのYouTubeもらまさにそうした魅力にあふれている。昨年の「M‐1」、先日の「キング・オブ・コント」での健闘により、メディア露出が増えつつある彼らだからこそ、バラエティ番組に出演する際などのテクニカルな悩みが自然と話し合われる。「あのときこうすればよかった、ああすればよかった」という、生々しいい悔しさも伝わってくる。

それらを聴くことができるのも、「まだ売れてない芸人のYouTube」ならでは。マスメディアを通しては中々聞けない、

 

長い間、ぼくの耳は「オールナイトニッポン」や「JUNK」に毒され続けていた。今こそ聴くべきは、「まだ売れてない芸人のYouTube」から流れてくる、売れることへの渇望、お金がない事への恨み節なのだ。