いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座、直毛によるブログ。今ここに、ポスト宮根誠司を目指すことを誓います。

壮観な会社版「強さのインフレ」ケヴィン・スペーシー主演『マージン・コール』 大企業勤めの人ほど観てほしい

マージン・コール(字幕版)

マージン・コール (字幕版)

マージン・コール (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 

 ケビン・スペイシー主演の金融映画『マージン・コール』。舞台は2008年の大手投資会社。「リーマンショック」の爆心地である「リーマン・ブラザーズ」をモデルにしている。難しい金融の仕組みとかはあまり考えなくても観られる面白い作品だった。

 

 世界的な金融危機を引き起こすことがほぼ確定した金融マンたちの、危機が表ざたになる前の罪悪感、葛藤などが描かれるのだが、「お前ら給料いくらもろてんねん」と、文字通り自分とは桁違いの年収に閉口しているぼくからしたら、そうした感情の部分では一つも共感するところはなかった。また、本作から学べるのは、金融業という「虚業」に対する警戒心でもない。


 そうではなく、この映画は「とんでもない問題が発覚し、雪だるま式にどんどんエライ人が登場していく様」が楽しいのだ。


 新しい『スター・トレック』シリーズでスポックを演じるザカリー・クイント。彼がピーターという、いかにも下っ端っぽい下っ端のリスク管理部門の若手社員を演じているのだが、ピーターが、解雇された上司から「用心しろよ」という言葉とともに謎のUSBを受け取る。

 

 ピーターがUSBの中身を分析したところ、あらびっくり。100年以上の歴史を誇る会社が余裕で吹き飛び、さらに世界がパニックとなるレベルのリスクがもうすぐ、確実に破裂することが分かったのだ(このあたり、ボランティアだかボラギノールだか、難しい言葉が連呼されるが、とりあえず「未然に防げたけど軽視したせいで莫大に膨れ上がったリスク」だと理解しておけば良い)。


 これに慌てたピーターくん。アフター5にバーで飲みちらかしていた同僚と、眉毛なしで顔が怖い直属の上司をわざわざオフィスまで連れ戻して事態を報告。伝えられた2人も秒でこれはやばいことだと悟る。


 さあここから、社内の権力のピラミッドを縦に突っ切っていく伝言ゲームが始まる。そこそこえらいケヴィン・スペーシー演じるサムに事態が伝わり、さらにさらにサムより上のデミ・ムーアや、寒いよりだいぶ若そうな重役が呼び出され…と雪だるま式にどんどん会社のえらい人たちが担ぎ出されていき、最終的に会長が会社の屋上にヘリコプターで降臨する。


 かくして、ど深夜に会社のトップたちが会議室に一堂に会することになる。そこに、ヒラの社員なのにリスク発見者として呼ばれるピーター。まるでそれは漫画『キングダム』で、まだ一兵卒だった信の前に、名だたる将軍らが一堂に会する壮観な眺めだ。そう、これは「会社キングダム」なのだ。


 ここで興味深いのは、普段はあんなに怖そうな眉毛なし上司が、ピーターたちと身近に見えてしまうこと。全く距離は変わらないはずなのだが、彼も会社の全体像で見ればまだ下っ端で、ピーターたちと一緒に会議室では借りてきた猫のようになってしまう。あまりに強大なVIPたちが現れたせいで相対的に距離が縮まった(かのように錯覚できる)のだ。


 こうした何層にも渡る権力構造が面白いのは、いわば「強さのインフレ」だからだろう。「え!?あのベジータフリーザの怖さの前に震えて泣きべそかいてる!」と衝撃を受けた、あのときと同じである。男の子ってこういうの好きね~と言われればそれまでなのだが。


 話は少し変わるが、本作でケヴィン・スペーシーが演じるサムは、なかなか複雑なキャラクターだ。映画冒頭では、社内で大量解雇が断行され、多くの社員がクビになる。ここで、デスクに突っ伏して涙するサムが登場。大量解雇への申し訳なさで泣いているのかと思えば、どうやら違う。飼い犬が死にそうだから泣いていただけらしい。あなた何人もを野良犬みたいに即日で外に放り出してるんですけど…。ここで眉毛なし男がマジかよ、とドン引きするのだが、サムにとっては部下たちをクビにすることなど朝飯前。むしろ、解雇を免れた社員たちに「君たちは有能で、チャンスを与えられたんだ」と発破をかける材料にすらしてしまう。


 ここだけ見るとドラマ『ハウス・オブ・カード』での利益のためなら人をも殺す大統領役に近似するように見える。しかしサムは、会長が会社を守るためにある「マナー違反」を犯すことを決断した際には、真っ向から反対し、止めようとする。部下の解雇にはあんなに冷淡だったにも関わらず、だ。


 ここから、前半で起こった「冷淡に見えた解雇」はサムの性格的な気質というより、彼の能力主義を極限まで追い求めたスタイルであったことが導き出される。そして、高潔な職業倫理があるからこそ、相手が会長とて不正を見逃せなかったのだ。彼はきわめて倫理的だということだ。


 とにもかくにも本作は、権力のヒエラルキーが何層にも積み重なる大企業に勤めている人ほど面白く感じると思う。