
(ネタバレ全開)
かつて一世風靡し、ハリウッド・ウォークにもその名前が刻まれた女優エリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、いつの間にか忘れ去られ、今では些末なフィットネス番組のMCを務めるのみ。50歳を迎え、自身の容姿の劣化をひしひしと感じ、番組もお払い箱になることを恐れていた。
そんな彼女が、ひょんなきっかけで「サブスタンス」というサービスに出会う。怪しげな注射を打つと…鏡に写っていたのは、スタイル抜群のボディにきめ細やかな肌の美女スー(マーガレット・クアリー)だった…。ここから彼女は、1週間交代でスーの人生とエリザベスの人生を生きることになる。
最初はスーの人生を謳歌していたエリザベス。ところが次第にエリザベスは、スーの希望に満ち溢れた人生にジェラシーを抱くようになっていく。スーとして成功していけばいくほど、エリザベスに戻る7日間が惨めで味気ないものになっていく。次第に彼女は、「7日で交代」というサブスタンス絶対のルールがわずらわしくなっていく…。
サブスタンスがくどいほどユーザーに繰り返すモットーは「REMEMBER YOU ARE ONE(忘れるな。あなたは1つ)」。スーの人生もエリザベスの人生も同じ自分自身。スーが成功するのは自分が成功したのと同じ。そう思えばいい。
ただし、2つの人生を交互に体験すればするほど、そのモットーを貫くことが難しいことに気づいていく。なぜなら、スーとエリザベスの間には絶対的な違いがある。スーはエリザベスがかつては持っていたスタイル、若さ、美貌…と「成功した過去」以外のあらゆるものを持っている。スーはエリザベスから次第に乖離し、別の個体となっていくし、エリザベスもスーを自分とは別の人格と捉えはじめる。だから、エリザベスがサブスタンスのカスタマーサービスに電話するとき、スーのことをついつい「シー」=SHEと呼び、先方に「YOU」と訂正されてしまう。スー=SUEは「SHE」(彼女)と1字違いで、始めからスーはエリザベスとは別の個人(ONEではない)であったことを暗示している。
ここに「サブスタンス」に仕掛けられた最大の罠がある。「サブスタンス」に惹かれ、つい手を出してしまうような、自分を他人と比べがちなユーザーは、本質的に「REMEMBER YOU ARE ONE」というモットーを貫き正しい使い方を継続する適性がない。逆に言えば「REMEMBER YOU ARE ONE」をモットーにして、スーとしての成功も自分のことのように喜べるユーザーは、始めから「サブスタンス」に手を出さないのだろう。わかりやすくいえば「用法・用量を守って正しく使える」ユーザーはそもそも最初から使わない。「サブスタンスの使い方を間違えて破滅の道を歩む人」しか「サブスタンス」は使わない。
そうなってくると、エリザベスを「サブスタンス」のサービスへといざなった人物の言った「あなたは候補者として適性がある」という言葉も裏を読みたくなってくる。彼はエリザベスの身体的な「適性」を見ていたのではなく、「サブスタンスの罠にまんまとハマってしまう適性」を見ていたのではないか?
SF的な考証はかなりうやむやにされながら進むのだけど、それでもラストのサブスタンス(肉塊!)となりまさに「YOU ARE ONE」(あなたたちは1つ!)になった状態など、80年代のクローネンバーグを彷彿とされる展開は圧巻。今年、絶対劇場で見るべき10本のうち1本に当確。