いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】カンパニー・メン ★★★★☆

金融危機の余波で12年つとめた会社をある日突然首になった男と、彼の家族の姿を描く。

主演のボビーを演じたベン・アフレックをはじめ、キャストがみないい。アフレックは、『アルゴ』での正義のヒーローって役柄も似合うのだけど、こういうお高くとまった嫌味なビジネスマンも似合うのだ。
トミー・リー・ジョーンズも、かつての栄光は影も形もなくなった会社の造船部門を率いる副社長を演じるあのくたびれた感じがいい。彼の重力に負けつつある顔面が、衰退する世界の盟主としての米国を象徴しているかのようだ。
あと、ケビン・コスナー!彼の役がこれまたオイシイ。主人公の義理の兄の大工なのだが、(たぶん)低学歴で職人気質の彼は、妹の夫の主人公にとって最初はマジで嫌なヤツとして登場する。オイシイのは、この人がその後状況をしっていろいろしてくれるからで……。


「カンパニーメン」というだけに、会社が自分のよりどころだったわけだけど、そこに居場所がなくなってしまうのだからさぁ大変というのがお話の導入部。例の解雇された社員が段ボール抱えて社屋から出てくる描写、あります。

まだローンも残っている、子どもたちの教育費もかかるということで、奥さんもいろいろやりくりし始めるのだけど、プライドが高いボビーは、解雇されたことを周りには恥ずかしくていえないでいる。弱さをさらけ出せないのだ。おまけに自意識が高いためか、再就職もなかなか決まらない。
とくにくるのは、就職相談所でのシーン。日本でいうハローワークのようなところだが、そこで講師を囲んでグループセラピーみたいなことをするのである。そこで、

I will Win! Why? Because I have faith, courage and enthusiasm!
「私は勝つ!なぜか?私には信念と勇気と情熱があるから!」

というスローガン(?)みたいなのをみんなとともに唱和をさせられる。いや、こういう自己啓発的なことも再就職には大切なのだけど、プライドの高いボビーの気持ちもわかる自分からすれば、これが屈辱的な事態だとはよくわかる。


けど、家計にはいまそこに危機が迫っているわけで。ここで彼を改心させるのが子どもだったりする。息子の吐露する不安(それは可愛い勘違いなのだけれども)で父親は気づくのだ。本当に大事なものは、人に誇れる仕事があるかどうかじゃないだろ、と。


一方で映画は、そんなに頑張れないよと力尽きる元同僚の姿も描く。ボビーと彼の違いは、実は家族のあり方のほんのささいな違いにすぎなかったりする。これをみると、結婚相手というのは現時点でどれだけ相手が高スペックということで選ぶのでなく、危機的状況に陥った時に「こいつとなら耐えれるか」という相手を選ぶべきだ、という持論の正しさを再確認したわけである。ふははは。


一念発起したお父さん、がんばります。ここから、嫌味なはずの義理の兄さんがズルすぎるアシストも。結末には、ちょっと予定調和というか、都合よすぎるという印象も残るけれど、そこはヒューマンドラマなのでご愛嬌。

終盤、ボビーはある場面でもう一度、「I will Win!〜」の唱和を、今度は自発的に発する。その高らかな「宣言」が、なんとかっこいいことか。


お父さんの解雇に向き合う家族というと、日本のテレビドラマの題材でもおかしくないのだが、高水準でまとまったドラマに仕上がっている。監督ジョン・ウェルズという人は、なんとこれが長編デビュー作らしいのだけれど、次作もみたくなる。