いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【遅報】M-1グランプリ2017評 今までこんな希望しかないM-1があっただろうか(いやない)

結成15年目のがけっぷち、とろサーモン優勝で幕を閉じた今年のM-1。ぼくとしては、ここまで幸福なM-1を見たのはいつぶりぐらいだろうという話だった。


【トップバッター問題 解消されず】

トップバッターのゆにばーす。優勝したら引退をかかげる川瀬名人と、今大会決勝唯一の女性となったはらからなるコンビだが、のっけから大うけ。はらが1階ベランダで歌う「翼の折れたエンジェル」という無駄に抒情性のあるシチュエーション、無駄に似たモノマネが最高にハマった一本で大会を盛り上げる。
そんなゆにばーすだが、大会中にトレエン・たかしが言った5、6番目に見たかったという言葉もうなづける出来で、1階からの「翼の折れたエンジェル」がオーディエンスに届いた一方、1番手から王者獲りは届かず。川瀬名人の引退は来年以降に持ち越しに。

今回から導入された「笑神籤」(えみくじ)。ネタ披露直前までどのコンビの番になるかわからないというこのルールだが、戦前ぼくはトップバッター組の福音になるのでは、と期待していた。大会中にネタ順が決まるというライブ感が会場をもりあげ、客の空気が重いという難点を帳消しにすると思ったのだ。ただ現実には観客の側ではなく、審査員が「残り9組がどれほどの出来かわからない」という状況で採点を強いられることにこそ問題の本質があった。結果として例年並みにトップバッターはつらいものに変わりなかったようだ。


【いまだかつてないM-1
2番手カミナリは昨年と因縁の“審査員長”(奇しくも紳助が座っていた位置である)上沼恵美子へのリベンジ。昨年ブレークしたどつき漫才をさらに高度な構成を加え、「審査員長」を納得させた。敗れはしたものの、敗退決定後に見事な散り際をみせた。ここで我々視聴者は(そうだ、この大会=番組は負け際もがんばらなければならないのだった)と、今一度思い出す。悔しがっているだけでは許されないのだ。

とろサーモンが旅館ネタで序盤ながらトップの好位置につけると、4番手には敗者復活戦で2位にダブルスコアをつけたスーパーマラドーナが登場(ただ、スパマラのネタについては、僕の感想は大吉先生と同じで、盛り上がりのピークがやや中盤すぎたか)。
そしてここで事件が起きる。マヂカルラブリーの登場である。愚直なまでの同じパターンの連打。最後の方は失笑に近かったと思うが、スパマラ、そしてまだネタ披露を控えている和牛らが見せるような眼がくらむような構成力の前に叶うはずもなく。竹やり一本で突っ込んでいくようなその雄姿は、上沼の「好みじゃない」の一発ではじき返されtしまうが、そのはじき返された放物線の美しさで我々を魅了する。まあ、ザ・パンチの伝説的なすべり方に比べたら、マシだよね。

今回の大会で何がよかったというと、繰り返しになるが全コンビが見せ場があったことだ。なんだあのさや香の清潔感。なんだあの前途有望感。「えみちゃんねる」にすでに出てそう感は。かまいたちキングオブコント優勝の勢いをそのままにぶちかまし、オールラウンダーぶりを見せつける。そして結成して5年目にして、異常な完成度を誇るミキの高速兄弟漫才。ただ、ミキはスーツの色をもっと派手にした方がいいんじゃないでしょうか。

これだけ、「この漫才で優勝できないのはおかしい」というコンビが多かった大会も、いまだかつてなかったのではないだろうか。


【優勝者でも敗者でもない特別な存在となったジャルジャル

そして我らがジャルジャルである。個人的には2015年大会のダブルボケのスタイルで優勝しておくべきだったと思うが、いまさら言うまい。今回も飛んでもないネタをぶち込んできた。
結果は言うまでもない。すでに大いに話題にはなっているが、敗退決定後に福徳が後藤にこぼした「ようボケれるなあ今…」は今大会屈指の名言。M-1グランプリという「ガチ」の大会と、「ガチになってどないすんねん」というお笑い芸人の職業的宿命が、バチバチっと火花をあげて摩擦した瞬間だったと思う。そう。俺たちはこういうのが見たかったんだ。
友達が「ジャルジャルのはすごすぎて笑えなかった」と言っていた。そう、今回のジャルジャルのネタは皮肉でもなんでもなく、「すごい」のである。
印象深かったのは、ダウンタウン松本人志が「一番面白かった」と言い、事実10組中最高の95点をつけていたところだ。審査員の中でも松本のジャルジャルへの点数は一番高かった。
というのも、ジャルジャルはいわゆる「ダウンタウンチルドレン」ではないということだ。かつて千原ジュニアのラジオ番組にゲスト出演した際、「ごっつ」は今でこそ面白かったと思うが、リアルタイムではよくわからなかった(大意)と言っていた。
そんな彼らを、今回松本が誰よりも評価した。異端から王道を作った男がまた別の「異端」を見出す。異端から異端への継承(もちろんジャルジャルがすでに一般的に見出されているのは百も承知だけど)。ジャルジャルのネタが松本に届いた、というところにはそんな感慨もあった。
何によせよ、うちあげで千鳥・大吾に「お前ら何年おもろいねん」と呆れられたのが、なによりもの栄誉ではないか。


【ラスボス感すら漂った和牛】
そして和牛である。昨年銀シャリをあと一歩まで追い込んだ彼らだが、優勝候補筆頭として登場。視聴者が選ぶ3連単では、ほとんど1位を独占していた。
なぜ彼らは優勝できなかったのか。もうこれに答えはないと思う。最終決戦の三組について、個人的には和牛ととろサのウケにほとんど差がなかったかのように思える。それゆえに、4対3という、誰か一人が投票先を変えたら結果が変わっていたという票数が、物語っていたと思う。
打ち上げの動画で知ったのだが、彼らは今大会、順々決勝、準決勝、そして決勝とすべて違うネタで挑んだという。理由は、ウケていたものの本人らがしっくりこなかったから、だとか。このあたり高校野球漫画のラスボス感さえただよっていたのだが、それゆえにM-1の神さまにそっぽを向かれてしまったのか…。

とはいいつつも、まさかまさかのとろサーモンの優勝。15年ほぼほぼ底辺にいた男たちの逆襲。こんな愉快で痛快なことはないではないか。これも打ち上げで拾った話だが、ツッコミの村田は先月の給料が生活できないほど少なく、困り果てたほどだったという。


「みんな面白かった。誰が優勝してもおかしくなかった。でも、とろサーモンが優勝してよかった」。そんな大会だった。