- 作者: 二ノ宮知子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/04/10
- メディア: コミック
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「のだめカンタービレ」の二ノ宮知子が、「ジャンプ改」創刊号で連載開始後、ヤンジャンに移って連載中の一作で、単行本は6巻まで発売されている。
みなさんは「オーバークロック」(以下OC)という世界をご存知だろうか。それは一言でいうと、世界中の猛者があらゆる方法を使い、コンピューターの「頭の早さ」を競う実在のレースである。
その方法が凄まじく、一般的なPCで使われるファンによる「空冷」から、水を使った「水冷」、さらには液体窒素を使った「極冷」なんて方法もある。プレイヤーは各々が自作したマシンを使い、コンマ1秒の早さをひたすら競い合い、ネットを介して一喜一憂しているのだ。
ぼくは一応大学がそういうこともかじれる学部だったはずだが、恥ずかしながらこの作品を開くまでその世界を全く知らなかった。
ぼくのような読者を、作中でS気が強いジュリアという登場人物がディスってくれている。
あんたねー なんもかんもコンピューター制御されてる 今の世の中に生きてて CPUとかに無関心って…… 消費者の極みね!!
消費者でサーセン。
本作の主人公奏(かなで)も同様で、物語の当初はOCのオの字も知らない。彼は音大に通うバイオリストだが、音楽的な成功を望むでもなく、何かやりたいこともなく、ただただ目標のない日々を過ごしていた。
そんな彼をOCとの出会いは、まさにH・I・T・O・M・E・B・O・R・E。 彼はあるトラブルでヒロインのハナに出会い、彼女への下心からOCの世界王者である変人MIKEを倒すべく、OCを始めるのである。
きっかけがきっかけだけに、奏のOCへの取り組み方はねじれている。自分で選んだ道ではない。ハナに見なおしてもらいたい一心でOCに取り組むのだが、挫折を繰り返し、そのたびに彼は自分はなんてところに来てしまったのだ、と彼は自分のきた道を振り返る。自分は数ヶ月前まで一介の音大生だったじゃないか、と。
けれど、そんな彼でも、持ち前の集中力でOCの腕を上げ、次第に大きな舞台へと導かれてしまうのである。
OCは彼にとって、自分が選んだものではないと同時に、自分で選んでいるものなのだ。
そういう意味で、OCにおいて彼は主体性と受動性の間で行き来しながらというねじれたかたちでの成長を遂げていく。
でもそれって、実はとても今日的な人間のあり方ではないか、とも思う。誰だって自分で選んだものではないけど、なんだかんだやって、なんだかんだのめり込んでいってしまう、そういうことがあるのではないだろうか。