いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】バンクーバーの朝日

戦前のカナダに実在した、日本人移民による野球団「バンクーバー・アサヒ」を描いた作品。
フジテレビの開局うんたら周年というやつで、めちゃくちゃお金がかかっているのが伝わってくる。出演陣が無駄に豪華なのとともに(ユースケサンタマリア、おまえはいらねーだろ)、何よりも当時のバンクーバーの日本人街を再現したオープンセットがすごい。CGで拡張している部分もあるのだろうが、気合いが入っている。


主演の妻夫木聡が演じるレジーたち日本の若者は、当時のバンクーバーの職場で差別的に扱われ、楽しみなのは野球だけだった。
その野球でも試合では巨漢の白人相手に連戦連敗だった彼らだが、レジーのあるひらめきによって局面を打開し、リーグ優勝を争うほどの強豪へと成長していく。
そんな彼らの野球での活躍は現地の多くの日本人に勇気を与え、また現地でも日本人への評価が見直され始めたが、その矢先に……という筋書き。


悪かない。悪くはないのだけど、突き抜けたところがなく、少々キツい言い方になるが、凡庸な一作という感じがした。

特に、『川の底からこんにちわ』や『あぜ道のダンディ』にあった(『舟を編む』『ぼくたちの家族』は未見)、石井裕也監督独特の風味は、減じている気がする。
石井監督的な要素とは、後退戦を必死で耐え忍ぶ人々のガムシャラな、でもどこかに滑稽さを残す姿なのだとぼくは思っている。
本作の登場人物もそういう意味では「耐え忍ぶ人々」なのだけれど、民族問題がからんでくるため、どうしてもシリアスに流れ、結果、彼らのガムシャラさが「本当に応援してあげなければいけないガムシャラさ」になってしまう。
そういう意味で、題材と監督の資質が合っていないのではないか、という感じがした。


プレーするレジーたちに「日本人としての」という確固たる意志はないのに、結果的にそれが「日本人」というカテゴライズのもとで評価されていくことへの戸惑いや、遠い本国の戦局によって無残にも変えられてしまう彼らの運命など、考えさせられるものもあるのだが、それ以上にいかないというか。大飛球かも知れないが、スタンドには届かないぞ、という印象が残った。