4年連続でペナント奪還に失敗したプロ野球・読売ジャイアンツの高橋由伸監督が、就任3年目にしてついに辞任することがわかった。
昨夜、このニュースがネット上を駆け抜けたとき、別に巨人ファンでもないぼくがまず思ったのは、「よかったな! ヨシノブ! ついに辞められる!」ということである。
端正なマスクに、天才的なバッティングセンス。
現役時代のヨシノブは、おそらく巨人ファンでなくても、アンチ巨人でも、誰もが見惚れていただろう。
むしろ、ヨシノブのプレーに惚れないのは野球ファンじゃないよ? とまでいえるかもしれない。それぐらいスター選手だった。
そんな彼が、半ば強引に現役から引きずり降ろされたのが3年前だ。選手兼任ではない。前代未聞の、現役生活を犠牲にした監督打診。
監督時代のヨシノブを見ていると、ぼくに似ていることがよくわかる。
何を言ってんだと、言われるかもしれない。
けれど、ある二点において、ヨシノブはオレタチ、カレはオレなのだ。
まず一つ目は、「辞めたいのに辞められない仕事をしている」、ということ。
本人は監督を打診された当時、「光栄」という言葉を口にしているが、それは悪い意味で「大人」の嗜みというもの。
第一、実際に監督になってからの3年間。彼が楽しそうであったことがあるだろうか。
唯一、楽しそうな表情を見せたのが、昨年のオールスターで自軍の捕手小林が珍しく本塁打を打ったととき、「シーズン中に打て」とばかりにその場で地団駄を踏んでいたころだ。
それ以外、彼は通常、ベンチでほとんど感情を失ったように突っ立っている。どう考えても「やりたくなさそう」で、「辞めたいのに辞められない」ようにしか見えなかった。
ヨシノブとオレタチをつなぐ点、2つ目。それは「メモ」だ。
監督中のヨシノブの代名詞といえば、緻密な戦術でも、気を衒った采配でもない。メモである。
3年間、シーズン中のベンチでやたらと目撃されていたのが、彼が手帳を取り出しメモを取る姿。
打たれてはメモ、打てなくてはメモ、負けてもメモ。メモメモメモ。
一体、メモには何が書かれていたのだろう? 一説によると、紙一面が「辞めたい辞めたい辞めたい」で埋め尽くされているという説も実しやかに囁かれてはいるが、真偽は不明だ。
ヨシノブは3年間、メモを取り続けてきた。
しかし、その「メモ」の内容に意味がないのは明らかだ。メモに有益な表情であったなら、あの巨人を率いて3年間、タイトルなしなんて芸当をやってのけられるだろうか。
あの「メモ」の内容自体には意味がない。では、何なのか。
教えてやろう。あれはバツが悪いときについついやってしまう「手グセ」だ。
なぜわかるかというと、何を隠そう、ぼくにもメモを取る癖があるのだ。
仕事でミスしたとき、上司に怒られるとき、大抵ぼくはメモを取る。
でもそれは今回の反省点の洗い出しや、次回への対策を書いているわけではない。
辛い時間が過ぎるのをひたすら耐え忍ぶため、メモはそれがちょっとでも安らぐように、顔を下に向けるための口実にすぎない。ボクサーもパンチをもらうときはあごを引くだろう。あれと同じだ。
ヨシノブは今まで、何百、何千というページをめくっただろう。何本のペンをメモとして消費していっただろう。何リッターのインクをメモ用紙にしみこませていっただろう。
その歴史は巨人の歴史、ではない。ヨシノブ個人の苦悩の歴史であり、どちらかというと囚人が毎日壁に掘る正の字に近い。いつ釈放の日が来るとも知らず、ひたすら待つ囚人のように…。
なぜ、ヨシノブは奴隷のように、自身の人生を搾取され続けてきたのか。なぜ、「辞めたくても辞められなかった」のか。
野暮なことをわざわざ書くまい。ネットで検索すれば呆れるほどすぐにわかること。人の人生を左右するのは、今も昔も呆れるほどシンプルな問題なのだ。
そんなことより今は、ヨシノブが解放されたことを言祝ごうではないか。
「辞任」と言えば悲しい響きだが、ヨシノブの心は咆哮しているはずだ。映画『ショーシャンクの空に』で土から出てきたティム・ロビンスが、土砂降りの雨を降らす天に向かって叫んだように。それは勝利の咆哮なのだ。
ヨシノブの第二の人生が、今、始まる。
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