いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】あぜ道のダンディ


川の底からこんにちは』の石井裕也監督作。灰色がかった田舎町を舞台に、人生の曲がり角で奮闘するおっさんの姿を描く。光石研主演、田口トモロヲ共演。

「あぜ道」という語にインパクトがあり、都会から取り残された田舎が主題(『サイタマノラッパー』的なアレ)の一つになるのかと思いきや、そうではない。そこに主眼はなく、この映画の射程はもっと広く、世の「お父さん」に暖かくエールを送っているように思えた。たぶんその思いは、このセリフに集約されている。

こんな時代におじさんやってんだぞ! 
後にも下がれなきゃ前にも進めない50歳だよ!


このセリフがビシッと全体を方向付けてる気がする。
都会であろうと田舎であろうと、息子や娘は何考えていることはよくわからないし、そろそろ病気の心配は出てくるし、おじさんっていうのは大変なのだ。本作は「おじさん」を、後退戦で歯を食いしばって耐え凌いでいる存在として描く。
後退戦でも戦わないといけないという話であれば、石井監督の一つ前の作品『川の底からこんにちは』で「どうせ私は中の下」と罵る満島ひかりと、ちょうど対の関係になるかもしれない。それは例えば、ダーレン・アロノフスキーの『レスラー』と『ブラック・スワン』が対の関係になっていたように。

そしてその歯を食いしばる様こそが、本作の定義する「ダンディ」なのである。

中盤までに懸案事項が思いの外あっさりと解決し、「え、大丈夫なのか」と思ったが、映画がなおも続きながら描き足していくのは、そうしたおじさんが一死のパッチで気取る「ダンディ」も、実は子どもたちにはバレバレだということ。バレバレなのだけれどそれでも、子どもたちは親父のダンディズムを「ダンディズム」として受け入れている、ということ。映画序盤で形骸化した家族という暗いイメージが魅せつけられたため、ココらへんでこの長男長女がめちゃくちゃいい奴に思えてくる。


川の底からこんにちは』にも感じたが、石井監督は「本気な人」が大好きなのだと思う。そして「本気な人」が空回りしている滑稽な姿が。本作だと「翔べ!メス豚!翔べ!」なんてまさにそうで、相手への怒りだとか期待だとかがいろいろ入り混じってわーってなっているとき、なんかこういう罵倒なのかエールなのかよくわからないことを口走るものなのではないだろうか。


主人公のあの仕事で私大に二人も行かせられるのかという懸念など、お金に関してはリアリティに欠けるものの、この映画はリアリティを追求するというより、先述したように何よりもおじさんへの「エール」なのだと思う。
脇役で光る光石研だが、今回は主役として横綱相撲といった感じ。とくに、田口トモロヲとのやり取りは何度あっても笑えてくる。わかりきったことを相手が反応するまで何度も何度も繰り返してイライラさせる奴って、いるいるーって思った。