いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【書評】投資家が「お金」よりも大切にしていること/藤野英人

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

投資家が「お金」よりも大切にしていること (星海社新書)

凝ったデザインの星海社新書。1ページ目がこれである。


1ページ目からなんて下世話なと思われそうだが、ファンドマネージャーの著者によって綴られる本書の中で、この言葉は全く別のイメージに変わっていくことになる。本書は「お金」のみならず、「社会」の本質を教えてくれるエッセイ。
本書はまず、日本人のある“勘違い”を指摘する。ネットでもいわゆる「嫌儲」思想が蔓延するが、著者はそうした日本人のお金に対するスタンスを、「好きの裏返し」なのだと断じる。
他の国と比べて現金・預金額が多く、また寄付をするでもない(米国では成人一人あたりの年間寄付額が約13万円に対し、日本ではたった2500円!!!)、本当はお金が好きで好きで仕方ない国民なのだ
ではなぜ、お金への感情にそうしたねじれが発生するのか。筆者はそれを、日本人が「豊かになるためには汚れること」あるいは「清らかでいるためには貧しくいること」(清貧の思想)のどちらしかないのだ、と勘違いしているためだと指摘する。
しかし、本当はそんなことはなく、清らかなことをしながらも豊かであることをめざす“清豊の思想”だって可能なはずで、それが投資の本来的なありかたなのだ、と著者は訴える。


本書でいう「投資」とは、デイトレがどうだとか、FXで数千万溶かしただとか、そういう小難しい話ではない。そうではなく、投資とはついさっきもあなたがした、お金でものを買うという「消費活動」すべてのことだ。
お金が流通で成り立つ社会はすべてが「互恵関係」にあり、ものを消費することは社会を創造することとなり、ひいては何らかの形で自分にかえってくる
だから、浅はかな消費活動はそれに見合った社会しか生み出さない。ブラック企業ファスト風土化も、自分と隔絶した無関係は話なのではなく、一人一人の“投資”が積み重なった結果であり、その逆もしかりなのだ。本書が教えてくれるのは自律し、賢い消費者として生きることそのものが価値のある生き方だ、ということだ。

読んでいると「お金」そのものが好きになるというより、この著者の“お金を通じて人と人、人と社会はつながっている”という「世界観」が好きになってくる。


印象としては、ジャンルは違うが内田樹『先生はえらい』に似ている気がする。平明でわかりやすく、柔らかいですます調なのだが、書かれてある内容は、ハッともやが開けるように新しくて、ラディカル。文章の難易度は高校生や大学1、2年生向けで、この本に出会う時期としても、本格的に消費者としてデビューするそのぐらいの時期がベストだろう。


この本で、ぼくもお金が大好きになりました。