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85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】シンデレラマン 85点

シンデレラマン [Blu-ray]

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1920〜30年代に活躍した実在のアメリカ人プロボクサー、ジェームス・J・ブラドッグと彼によるボクシング史上最大のアップセットとされた王者マックス・ベア戦までを描いた、ラッセルクロウ主演、レニー・ゼルヴィガー共演によるロン・ハワードの伝記的映画。


ストーリーは王道なのだけど、というかちょっと『ロッキー』入っているが、それでも、後にこの監督が撮ることになる『ラッシュ』と同様に語り口に無駄がなく、焦点を当てる部分が適切なため、飽きさせない。

ジャブ! ストレート! のワンツーではなく、貧乏! ボクシング! 貧乏! ボクシング! 貧乏! ボクシング! のワンツーがひたすら繰り出される内容。大げさではなく、ボクシングしていないときは貧乏で、貧乏していないときはボクシングしているのだ。
この説明には、ブラドッグが活躍した時代を欠かすことはできない。人々が仕事にあぶれ、無料の配給に長蛇の列を作るような大恐慌時代。彼自身も、一軒家の邸宅からあばら屋へ、という信じられないような落差を経験する。特に、昔の仕事仲間たちにカンパを集めるシーンは身につまされるものがある。そこそこ顔が知られていた分、配給に並ぶことは彼にとって一般人よりも屈辱的だ。この「貧乏の屈辱」が、物語の強力な推進力となっている。

ボクサーとしても元世界ランカーから客に野次を浴びるロートルへ落ちぶれ、一度はライセンスを剥奪された彼だったが、ひょんなきっかけでもう一度だけ試合をするチャンスを手にしたことから、逆襲が始まる。
「リングの上での苦痛なら耐えられる」――彼がそう言って出場を快諾するのも、リング外で味わった貧困と屈辱がいかほどのものだったかが、思い知らされる。家族のため、自分のため、なけなしのチャンスに全身全霊をかける。


当時すでにアカデミー賞俳優だったラッセル・クロウ横綱相撲はもちろんだが、本作では彼のマネージャーのジョーを演じたポール・ジアマッティの存在感も光る。口から先に生まれてきたような男で、ブラドッグがリングの中でボクシングをしているなら、リング外では彼が言葉のボクシングをやっているようなものだ。
夫の身を案じる妻(ゼルヴィガー)も素晴らしい。夫婦の掛け合いも見ていて和むが、特に、彼女が冒頭でおどけてやる「選手紹介」が、全く別の意味合いで繰り返される後のシーンでは、涙腺を緩まされた人もいるのではないか。これは上手い。


この作品が公開された3年後、アメリカを中心にして世界は再び大恐慌に見舞われた。「地震なんてないよ女」のときも論じたが(すでに過去の人化してる……)、どん底でもヤケにならず、与えられたチャンスに賭けた彼の精神性は、今の時代だからこそ見習うべきものなのかもしれない。