いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】3時10分、決断のとき ★★★★☆

3時10分、決断のとき [Blu-ray]

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むちゃくちゃ「男臭い」映画。でもそれは西部劇という絵面以上に、描かれている信念みたいなものが、非常に「男が好きそうなもの」であるという意味においてだ。
舞台は南北戦争後のアメリカはアリゾナ州。悪名高い盗賊団のボス、ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)がついに捕まった。しかし、ベンを縛り首にするためにユマ行の列車がでる駅まで護送しなければならない。それは、ベンの手下たちが彼の奪還を狙ってくるにちがいない危険な旅だ。その護送団に、貧乏な牧場主のダン・エヴァンス(クリスチャン・ベール)が借金返済をかけて加入する。

ストーリーはこのベンとダンを中心に回っていくのだけれど、この二人が非常に対照的。
ダンは一本気でバカ正直なやつなのだが、生きるのがめちゃくちゃ下手なわけだ。意地悪な地主の策略で借金を背負い、納屋も燃やされてしまう。南北戦争ではお国のために戦ったが、不運な形で片足を失っている。貧乏な暮らしは彼のせいでないが、妻や息子たちからの信頼も失いかけている。

一方ベンは、狙った獲物は逃がさないとばかりに手段を選ばない極悪人だ。ときには仲間さえ冷酷に殺してしまう。しかしそれと同時に、彼の人間的な魅力は他者をひきつけてやまない。護送の途中で立ち寄ったダンの家では、ダンの嫁や息子さえ、彼に魅了されてしまう。そう、彼には典型的な「悪の魅力」が備わっているのだ。


ちなみに、この二人には宗教的にもおもしろい違いが浮かびあがっている。
ベンは悪人なのだが、それでも非常に信心深いところを見せる。その一方で、ベンもキリスト教信者だが、妻に「5年間祈ってきたが、神はなにもしてくれなかった」(大意)と声を荒げる場面がある。富める悪人がこれまでの悪行の成功を神のご加護と感謝する一方で、貧しい善人はいくら祈っても報うことのない主に怒りすら覚えている。ここにはそんな皮肉な構図が浮かび上がっている。


なんといっても、この映画の見せ場はクライマックスだ。

3時10分にユマ行の列車が出る駅を目と鼻の先にして、ダンら護送団は銃を持つベンの手下たちに取り囲まれてしまう。もはや絶体絶命のピンチ。ベンの護送を依頼してきた鉄道会社の人間や保安官まで、あきらめて投降していく。そんな中でもダンだけは逃げない。そこにあるのは、家族を思う気持ちと、彼のなけなしのプライドだけだ。
3時10分を前に、ベンを連れた彼の最後の戦いが始まる。

ここから先の展開はガンアクションとしてすさまじいが、ベンのもろもろの行動にやや疑問を持つ人がいるかもしれない。しかし、こう考えてみてはどうだろうか。銃撃戦の結果を前にして、ベンはあらかじめダンに「負け」を認めていたのではないだろうか。最後の戦いに身を投じることをダンが「決断」をした時点において。

シルベスタ・スタローンの「ロッキー1」を思い出してみてほしい。忘れられがちだが、ロッキーはアポロとの試合に方わけではない。負けているのである。なのに、なぜあんなに「エイドリアアアアアアアアン、エイドリアアアアアアアアアアアアン」と歓喜しているのか。
それは、彼にとって勝敗はどうだってよかったからである。世界ヘビー級チャンピオンに恐れずに立ち向かったことこそが、自分の心根に巣食う恐怖を克服したことこそが、彼の勝ちなのである。


クライマックスのダンに肩入れしているかのようなベンの振る舞いは、「お前には負けたぜ…」と負けを認めた者による、勝者への粋な計らいのような気がしてならない。