いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

なぜアメリカは世界をスパイし続けるのか

元CIA職員が暴露したアメリカNSAの情報収集問題から、芋づる式に同盟国などでも同国が盗聴を行っていた疑惑が浮上し、問題になっている。
なぜアメリカは同盟国までスパイしつづけるのか。それを考える一助となるような映画『ワールド・オブ・ライズ』(原題:Body of Lies)を最近観た。
数多あるリドリー・スコットの作品群の中でも、今作は比較的に存在感が薄い部類に入るが、実際見てみるとなかなかどうして、非常に示唆に富む作品だった。

ワールド・オブ・ライズ [Blu-ray]

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フェリス(レオナルド・ディカプリオ)は中東でテロ活動の捜査にあたるCIA工作員アラビア語が堪能で現地にも明るい彼の捜査手法は、現地の人間と信頼関係を結んだ上で協力し合いながら進めていく、というものだ。
しかし、彼の上官であるホフマン(ラッセル・クロウ)は、フェリスと協力者らの絆を無視する。彼にとっては、アメリカの安全が第一であり、向こうでの協力者はそのための駒にすぎないのだ。
欧米で爆破テロを続けるアルカイダ系組織のリーダー・アル・サリームを見つけるためヨルダンに乗り込んだフェリスは、同国情報局の局長ハニに協力を求める。マーク・ストロングという人が演じるこのミステリアスなハニがある意味物語の鍵を握るのだが、フェリスは彼に強い目力でこういわれる。「私と組むならルールを守ってほしい 決して嘘をつくな 分かったか? 絶対に私を騙すな」、と。

フェリスはハニの協力をえて、組織の隠れ家と思われる場所にスパイを送り込むが、この計画は失敗する。フェリスの上官ホフマンが陰でこそこそ動き回り、邪魔してしまうのだ。劇中、ホフマンがフェリスに隠れて行うことはいつもこうだ。独断専行でことを進め、結果的によい方向には向かわないのである。おかげでフェリスはハリの信頼を失ってしまう。


なぜホフマンは、こうも身勝手なのだろう。彼の存在は、この映画で冒頭から繰り返し登場する無人偵察機プレデター」が一つのモチーフとなっているように思われる。プレデターははるか上空から、群衆の中でもはっきりと選別できる画質で対象者を視認し続ける。ホフマンは米本国から、フェリスの一挙手一投足をこの上空俯瞰的な「神の視点」でもって管理/監視しているわけだが、これは彼、そしてアメリカにとって理想的な情報管理のあり方を象徴しているように思える。

つまり彼は、常に相手の情報をすべて知っておかなければ気が済まないのである。情報において、相手に優位をとられるということは、彼にとってありえない。そこには「よくわからないが黙って信じよう」という「他者」とのイコールパートナーの関係はないのである。

しかし、それが通じるのは自分が優位にたてる局面のときに限られている。郷に入れば郷に従えという言葉があるように、どうにも挽回できない「地の利」というのがある。現に劇中でも終盤、万能と思われたプレデターが通用しなくなり、フェリスを大ピンチに陥れてしまう場面がある。そのとき彼を救うのはなにか。続きはぜひ自分の目で確かめてもらいたい。


アメリカが他国をスパイし続けるのは、21世紀現在も、世界を自分中心で動かそうとする外交姿勢の現れでないかと思う。彼らはそれを、国民の安全のためだと主張してはばからない。けれど、スパイされるが側からしたら、たまったものではないだろう。なぜ我々を信頼しないのだ、と。映画のように中東相手の話ではない。欧米諸国を相手に行われているのである。

思えばアメリカは、「自己決定」が美徳とされる国だ。けれども、「自己決定」を追求するのは並大抵のことではない。膨大な情報を収集しなければならないし、ときにそれが他者を騙す結果になるかもしれない。
「自分の見た物しか信じない」といえば、それは一見まともそうにみえるけれど、それを追求するのは狂気の沙汰であるというのを、あの国は身を持って教えてくれているように思える。