いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】スノーデン



他の映画だとあまりないですが、観終わったあとに「落ち込む」という感情に襲われました。だって、スノーデンさん、スゴすぎなんですもん。なぜかニュースで見ていたときには年齢について深く考えませんでしたが、こうして映画にされると実感するのは、彼が83年生まれでほとんどぼくと同世代ということ。そして同世代だからこそ、落ち込んでしまうのでしょう。

本作は、母国アメリカを追われ、現在ロシアに住む元CIA職員、エドワード・ジョセフ・スノーデンさんが、かの国家的暴露に至るまでを描いた自伝的映画です。ほら、33歳にして自伝ですよ(まだ尾を引いている)。

メガホンを取ったのはオリバー・ストーン監督。近年は日本もからむ政治的発言が盛んで、アメリカでは左寄りの御仁です。この映画も観るまではどこか不安なところがありましたが、いざ蓋を開けてみれば無問題。スノーデン寄りではありますが、「酷い偏向」なんかは感じられませんでした。

なんでも本作はスノーデンからのリクエストで、ストーン氏が2年間で9度にわたり、本人から直接聞いた話を元にしているとか。スノーデンに都合のいい話になっているのは、スノーデン本人の話を基にしているからで、そら当たり前ですよね。

もちろんこの映画だけで事実関係を知った気になるのはアレですが、何より本作は劇映画として素晴らしい。一級品のスパイ映画です。

人一倍の愛国心があった青年が、一度は挫折を味わうものの、そこから得意のプログラミングの腕を買われNSA、CIAで活躍する。テロとの戦いという大義の重圧に侵されながら、職務を全うしていた彼ですが、次第に、国家と、自分の仕事の正当性に疑問を持つようになる。それは、彼自身のアイデンティティクライシスでもあるのです。自伝ではありますが、このようにちゃんとハリウッドのブロックバスター映画の要素がてんこ盛りなんです。だから飽きさせません。ニコラス・ケイジも、誰もが魅了されるような「雲のジュウザ」的なズルいポジションで出ています。

同時に本作は、現代の国家安全保障にITが切っても切り離せないことを再認識させてくれる。恋人に持病を心配されるとき、スノーデンは青い顔で「僕はアメリカ国民の命を背負っている」と諭す。現代では、青白いホワイトカラーが戦争に駆り出されている、というのがよくわかるシーンです。イーサン・ホーク『ドローン・オブ・ウォー』でも描かれますが、現代の兵士は中東でテロリストを殲滅したその日の夕方には、ラスベガスの自宅の庭先でBBQに興じることができるのです。

おそらくスノーデンさんは、今後、20万ドルもらえていたころの生活に戻ることはないでしょう。それと引き換えに彼が成し得たことを考えていると、落ち込むのもおこがましい気がしてきました。ただただ心の中で五体投地するぼくなのでありました。