いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】アメリカン・ギャングスター ★★★★☆

デンゼル・ワシントンラッセル・クロウ共演による犯罪映画。60年代末から70年代にかけて、ニューヨークのハーレムで一財を築いた麻薬王フランク・ルーカスと、彼を追う麻薬捜査官リッチー・ロバーツを描く。

本作はなにより構成が特殊だ。

主演はこの2大スターであり、アートワークでもあたかも2人が共演しているように映るが、劇中で2人はほとんど同時に画面には映らない。監督のリドリー・スコット自身が「フレンチコネクション」と「ゴッドファーザー」を同時に撮ったと評しているように、本作はあたかも別々の映画(のように思えるもの)を交互に展開していくという、少々アクロバティックな方法を採用しており、しかもそれが成功しているのだ。
コメンタリーによると、脚本のスティーヴン・ザイリアンが、存命するフランク・ルーカスとリッチー・ロバーツに会ったというのだ。2人に聞いた膨大なエピソードを、彼が苦心しながら一つの線に構成しなおしたのだそうだ。そういう意味で、この映画は脚本家の功績が大きい。

「フランクの章」といえるパートで描かれるのは、「ゴッドファーザー」さながらに、ある男がファミリーを築いていく一代記だ。純度100%の麻薬の供給源を独占的に手に入れた男がのし上がっていく。他の勢力から身を守る為にイタリアンマフィアにボディガードを頼み、警察には麻薬取引を見逃してもらうみかえりに賄賂を渡す。そこには、腐敗したハーレムの「エコシステム」が完成されている。かくして彼の麻薬は、ハーレムにまたたくまに広がっていく。

一方、「リッキーの章」といえるパートでは、その「エコシステム」に亀裂を入れようと立ち上がる麻薬捜査官リッキーが描かれる。自分を「頭の狂った警察官」と評する彼は、仕事には実直だが妻との離婚裁判に頭を悩ませているいわば「不器用なデカ」だ。特別捜査班の長に任命され、蔓延する「ブルーマジック」(フランクが独占的に販売しているヘロイン)の供給経路の捜索に乗り出す。

見始めたとき、この2人はまったく関係ない。事実、2人はお互いの存在すら知らない。
しかし、それまで自ら存在感を殺ししたたかに勢力を拡大していたフランクが、中盤のあるほんの些細なことによって捜査線上に浮上し、物語は大きな展開を見せる。

最後の銃撃戦からの、フランクのリッキーの対面、そして抑えめのカタルシスに至るまで、隙がない。
そしてなにより、この映画を『エイリアン』や『プロメテウス』のリドリー・スコットが撮ったというのも、驚くべきなのだ。


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