いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

ぜんぶ『ヒーローショー』が悪いんだ! 〜井筒和幸『黄金を抱いて翔べ』55点〜

高村薫のデビュー作を、『岸和田少年愚連隊』『ヒーローショー』などでもおなじみの井筒和幸が撮った映画。

結論からいうと、終始段取りくさい。まるで原作によって予め決められていたポイントを、a点→b点→c点→…という具合に井筒さんがなぞっているだけのように見える。だからすごく窮屈に感じる。

くわえて、原作が長編ということもあり2時間の映画に収めるには説明不足。なぜ彼らがこんな一世一代の大犯罪に手を染めることになったか。それがよくわからないのだ。物語の立ち上がりは夏だったのに、いつのまにか冬になっているし、この人たちの計画のスケール感もない(特に、香田とモモのつながり)。いつもの井筒さんの映画なら、登場人物たちの恐ろしくリアリティのある何気ない会話から、彼らの人間関係が徐々に立ち上がっていくはずなのに、それさえできないくらい、今作は拙速であり唐突だ。結構大切なある人物たちの死も、喪服だけで示される。これはあんまりじゃないだろうか。西田さんの「アレ」もギョっとはしたけど、そのあと来るとってつけたようなお涙頂戴の展開は、興ざめだったなぁ。


また場面の展開にクロスフェード(前の映像が次の映像に徐々にかわっていく編集方法)を異常なほど多用していて、それも不自然だ。ここらへんは、井筒さんも編集に相当苦労したんじゃないかと想像する。


いつもはリアリティ、リアリティと口素っぱくいう井筒さんである。ピストルの弾がやたら外れるのも、そうした彼のこだわりの一端だろう。しかしこの映画には、そんな彼からしたら考えられないようなシーンもある。とくに、犯行シーンの警備員らが登場するあたりは、フザけてんのかといいたくなる。人間はぽーんと叩けばあんな簡単にバタバタ気絶してくれるのだろうか。それではまるで三流アクションコメディだ。
そうしたリアリティは作品内でも破綻をきたしていて、前半ではある男が妻夫木に思いっきり灰皿でドツかれているのである。ちょんと叩いて気絶するなら、灰皿でフルスイングされたあの兄ちゃんは確実に死んでるね。
さらに、目を疑ったのはクライマックス。浅野があるものを川に流すんだけど、それが真っ昼間なのには唖然である。警察が来たらどうするんだ…。いつもの井筒さんならきっと、虎ノ門で怒鳴り散らしてたと思う。


ただ、観るべきところがなくもなくて、珍しく陽気で口数の多い兄ちゃん的な役柄だった浅野忠信はよかった。彼が元気な役柄というのもあるが、彼だけ血の通った役だった。それから
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> 突然の立ちバック<
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も、今作の大きな見所の一つだろう。ここには、中村ゆりの女優魂に対し賛美を送らざるをえない。


でも、これは観る前からわかっていたのだ。
前作『ヒーローショー』のような悪夢的映画を撮った後じゃ、誰がどう頑張ったって凡作になってしまうに決まっている。この映画の妻夫木演じる幸田の絶望は確かに深い。けれど、『ヒーローショー』における救いようのない若者たちの虚無的な絶望の深さと比べてしまえば、どうしようもなくそれは見劣りしてしまうものなのだ。