いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

北欧の子供部屋おじさん、“男らしさ”と縁を切る! 『好きにならずにいられない』

好きにならずにいられない(字幕版)

 本邦でも「子供部屋おじさん」という言葉が、差別的なニュアンスで流通しているが、どうやら状況は遠い北の国でもそう違いはないらしい。アイスランド発の映画『好きにならずにいられない』は、43歳の独身童貞男が主役のラブコメディ。

 

主人公は、空港の荷物係として働くフーシ。彼女がいなければ恋愛経験もない、43歳の独身男だ。

 

興味深いのは、遠い北欧アイスランドが舞台の映画なのに、日本のネット民が大好きなネタがたくさん散りばめられていること。フーシの趣味は、第二次世界大戦ジオラマづくりで、それは彼の部屋に所狭しと飾られている(オタク!)。

おっとりした優しい性格だが、巨漢&若干ハゲた頭髪という風貌のためか、近所に越してきた少女を誘拐したという疑惑(事案!)も立てる災難もある。

 

その上、柄の悪そうな同僚(DQN!)たちとは相容れず、彼らのいじめの対象になる。更衣室で、同僚たちにいつもシャワーを浴びないことをいじられ、無理やり浴びせられるシーンで、「ああ、男同士で上裸を気軽に見せあうことで絆を確かめるホモソーシャル文化、あったな…」と嫌なことを思い出してしまった。

その後、一転してDQNたちに気に入られる瞬間があるが、彼らの集まりに呼ばれて、そこで性が絡んだ最悪なイベントが起きて、フーシはそれも拒絶する。

 

フーシは、DQNだから同僚たちから距離を置いていたわけではない。ましてや、自分をいじめていたからでもない(それならば、彼らに気に入られてからは上手くやっていたはずだ)

そうではなく、フーシが全身から発しているのは、彼らの「男らしさ」「ホモソーシャル」への拒絶だ。彼は「いい年になったら、子どものおもちゃからは卒業し、車をいじったり、女について下品に同僚と話すもの」だとする、そういうコミュニティから縁を切っているのだ。

 

「男らしさ」や「ホモソーシャル」と縁を切ったフーシ越しに描かれる物語は、そうした男性社会の「暗黙のお約束」に対して、「なんでそんなことしなきゃいけないの?」という疑問を投げかけ、そんな彼を「普通じゃない」と異端視する人々の側こそ“普通じゃない”ことを示唆しているように思える。

 

フーシの行く末を不安視した母とその彼氏が、彼を半ば無理やりダンス教室に通わせることになる。嫌々ながら教室に向かったフーシは、そこでシェヴンという女性に出会い、2人は徐々に惹かれ合っていく。

 

ここで、「ホモソを忌み嫌いながらも、結局女性と対幻想を作らなければ男は充足できないのか」という突っ込みようがありようが、注意深く観察してほしい。

フーシは、シェヴンを対幻想に無理やり引き込もうとはしない。あくまで彼女のためを思い、懸命に動く。そこに損得の感情はないのである。

そして、少々唐突とさえ思える展開で、映画は幕を下ろす。キャストインタビューによると、この展開は予算上の問題で急遽改変されたものだという。結果的にそれでよかったかもしれない。「まあ、上手くいきそうで、いかないことってあるよね」という妙にリアリティのある後味だ。

 

好きにならずにいられない [DVD]

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  • 発売日: 2017/01/05
  • メディア: DVD