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85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】韓国の"男らしさ"の暗黒面を描く「野良犬たち」


野良犬たち [DVD]

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韓国からの留学生の女子に飲み会で、日本の男は恋愛において積極的でないと叱られたことがある。いわゆる「草食系男子」批判だが、彼女の母国の男性は、意中の女性にもっとグイグイ言い寄ってくるのだとか。
そうした男性の積極性を生む韓国の風土は、『殺人の追憶』や『トガニ 幼き瞳の告発』などの映画で実話を元にした陰惨な性犯罪を目の当たりにするたび、同一視はできないまでも、どこか細く長い糸でつながっているような気がするのだ。


本作『野良犬たち』は、ある寂れた村落を舞台にしたサスペンススリラー。これも実話を元にしたというが、具体的にどういった事件だったかはググっても出てこなかった。
不倫相手の略奪を決意した主人公の記者が、相手の夫である同僚カメラマンのいるとされる村を訪れる。「犯罪ゼロ」と謳うわりに武装した村民が出てくるなど見るからに怪しい村で、狭いコミュニティゆえに最初は素性を怪しまれた主人公だったが、徐々に歓迎されはじめる。
しかし彼がそこで目撃するのは、病気と貧困の中にあえぐある母娘家庭を、死肉を漁る野良犬の群れのように組織的に食い物にする最低最悪の「ホモソーシャル」だった。


主演のキム・ジョンフンという人は、ぼくは知らなかったのだが映画と違い素顔はなんとも甘いマスクで、日本でも歌手活動をしていたそうだ。そんなわけで「アイドル映画かよ」と思う向きもあるだろうが、本作は彼の個人的な魅力とは別に、韓国社会の性の問題にも真正面からスポットをあてる。
これも胸糞悪くなる場面だったが、ある村民が酒の席でベトナム戦争時に現地の女性を犯した上に殺した、と自慢気に語る。先述した「ホモソーシャル」とは、一言でいうと、外部に阻害した女性を「オカズ」にして結束を強める男性社会のことだが、己がレイプして殺した女性を「ズリネタ」に盛り上がるなど、その史上最低の形態といえよう。
だが、これはフィクションでもなんでもなく、現に韓国では、ベトナム戦争出兵時に、現地で犯した虐殺や性犯罪が問題視され始めているという。
韓国軍がベトナムで働いた婦女子への性暴行 現地からの報告 - ライブドアニュース
映画では村ではためく韓国の国旗がたびたび映るが、その旗に肯定的な意味合いをみいだすことは、難しいだろう。


村の男たちの形成する「ホモソーシャル」は、「犯罪ゼロ」を謳う村のあり方そのものと同心円上にある。つまり、卑劣なレイプも、彼らの形成する男社会の中では女の側が誘惑してきたことに都合よく変換され、犯罪にはならない――「犯罪ゼロ」にはそんな大いなる皮肉が隠されている気がする。
冒頭で愛人になかば暴行まがいに行為を強要した主人公だったが、彼らの姿に改心したのか、彼らの性玩具にされる娘を救い出し、彼らの罪を告発することを決意する。村ではみな銃を自作するといい、全員が自分自身の銃をぶら下げて主人公らを追いかけるが、フロイト的解釈にのっとると、銃がペ●スの隠喩であることはいうまでもない。


追う側も追われる側も雪の中でモゾモゾしてるだけにみえる逃走劇はショボくて、全体的に「火サス」のようなチープさが漂いはするが、勇猛な「男らしさ」の裏の顔をのぞくにはうってつけな一作だろう。