- 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
- 発売日: 2006/06/23
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韓国の監督ポン・ジュノによるサスペンス映画。
同国のある村で起きた連続婦女暴行殺人事件の犯人を追う刑事たちの姿を描く。
86年から91年にかけて起きた韓国史上初の連続殺人事件、通称「華城連続殺人事件」がモデルになっている。
こういう実際の事件がもとになっている映画は、同国の人にはなじみのある大事件なのかもだけれど、それが一歩外の世界に出てみると、意外とマイナーだったりする。日本人だと三億円事件なんていうのは、作品化されるたびになんとなく気になってしまうものだが、あれも外国では「ただの強盗事件だろ」といわれてもおかしくない。本作も鑑賞前はそれが危惧されたが、結果的にいうと杞憂に終わったといえる。事件に興味がなくても堪能できる。
舞台は80年代中期のさびれた村なのだが、このあたり日本の「80年代」にマインドセットされていたら、かなり違和感があるだろう。この違和感は、綾瀬はるかの『僕の彼女はサイボーグ』や、『サニー 永遠の仲間たち』でも催した。おそらくその正体は、日韓での高度経済成長期のギャップなのだろう。韓国が発展したのは90年代以降だ。その上、事件の現場となったのがさびれた村なのだからなおさらだ。全体的にベージュががかった画面がそのさびれた感に拍車をかける。
ストーリーについては、見る人で評価を二分するような気がする。残忍なレイプ殺人が発生し、主人公ら田舎刑事(+ソウルからきた都会刑事)が、最初はいがみ合いながらも捜査に乗り出す。だが、この捜査手法がとにかく荒いのだ。要するに、結論ありきの取り調べなのである。オープンとはほど遠い取調室で、被疑者をボコボコにし、証言をねつ造する。
問題は、映画がそうしたほとんど被害者に近い被疑者ではなく、あくまで主人公ら刑事たちの心情に肩入れするところだ。中盤までは、そのようは捜査がわりとコミカルにさえ描かれる。終盤でも、刑事の1人が事件とほとんど無関係な、どーみても自分に非があるケンカにて、取り返しのつかない大けがをするのだけれど、そのときもソン・ガンホ演じる刑事は、よくわからない感傷に浸る。それはまるで、残忍な殺人を止められない自分たちの無力感を痛感するような表情で。いやいや、お前らが追いかけ回した目撃者が××に××れとるやないかい!!あれについてはほとんどスルーかい!というツッコミもある。
と、まぁいろいろもにょもにょする映画ではあるのだ。ポン・ジュノというと、『母なる証明』もそうだけれど、そうした倫理的なバランス感覚が極端というのが、作風にあるのかもしれない。
けれど、我々は映画に倫理を求めているわけではない。倫理的におかしいと思いながらも、どうしてもこの映画に惹かれてしまうのは、有り余るほどの映画的な力があるからに他ならない。印象的なシーンは幾重にもある。前述のように、外道すぎて笑えねーよ!というギャグもあるが、笑えるギャグもそれ以上にある。
ポン・ジュノの、理性に曰く言い難い非理性が優ってしまう危険な世界は、この映画に始まっているのかもしれない。