いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】スノーピアサー 90点

ポン・ジュノ監督の『スノーピアサー』は、トニー・スコットも天国でびっくりの"アンストッパブル”な列車の映画だ。
人類のある過ちによって地球が氷に覆われてしまった2031年、生き残った人類と全財産、全生物はウォルフォード卿が運営する"走る方舟"スノーピアサー号に住まう。つまり、列車の中になけなしの世界が再現された、というのである。

冒頭で明かされるこの、ド派手でぶっ飛んだ設定に誰もが面食らうはずだ。人類アホすぎるだろとか、全人類が乗ってる列車で線路の整備は誰がやるんだとか、そういうアラ探しをしたくなる。
けれど、観終わったあとからすれば、そうした指摘の方こそがしょっぱく、陳腐に思えてくる。というのもこの映画、面白すぎるのだ。設定の無理を、映画そのものの力が覆してしまう。

列車の最後尾の貧民車両に住んでいる主人公のカーティスは、キャプテンアメリカクリス・エヴァンスが演じているが、申し訳ない。今作の優れた点はキャプテンの魅力というより、映画そのものの豊穣なアイデアと、魅力的な世界観によるところが大きい。
ボロを着た貧民たちと薄汚れた貧民街、キッチュディストピア観など、テリー・ギリアム大好きというのがありありとつたわる(ちなみに、作中の重要人物の名前は"ギリアム”)。
しかし、序盤の「土管でドカーン作戦」など、勘所となる見せ場での熱量は本家を上回り、設定だけで中だるみ、ということにもならない。「列車から腕ぴょーんの刑」など残酷でいて斬新だ! と唸ってしまう。
あと、ティルダ・スウィフトンが演じる"総理"は、その存在感とキモいしゃべり方がMVP級のインパクトを残す。


振り返ってみると、「そもそも走ってる必要なくね? 閉鎖空間っていうことでよくね?」という根本的な疑問が生まれる。
がしかし、言葉ではどうにも説明できないが、この映画は、主人公たちが列車という長細い閉鎖空間を黙々と前に進んで行くという展開が、一つの強烈な個性となっていると思う。一直線ということもあって、話自体がわかりやすい。前に進むだけなのだから。
本作では「エコシステム」が一つのテーマだが、話の落としどころもこの監督にしては意外なほど腑に落ちる。今年の2月公開で見逃していたが、是非とも押さえておきたい一本である。