いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】LIFE! (原題The Secret Life of Walter Mitty)

雑誌「LIFE」の写真管理部という地味な仕事に精を出すウォルターには、空想癖がある。彼の空想癖は、犬の鳴き声というほんの些細なことから始まり、ビルの爆発火災から人々を守り、意中の女性と恋仲になるというところまで、幅広く拡張していく。しかし現実のウォルターはしがないサラリーマンで、彼女に話しかけることもできず、腹の立つ上司にも何も言えない。
そんな彼に、使命が下る。彼に信頼を寄せるカリスマ的写真家ショーンが、ライフ最終号のためにと送ってきた「人生の真髄がそこにある」という写真が、紛失してしまうのである……。


実際には気弱な小市民だけれど、いや、そうであるがゆえに、人々をアッと言わせる活躍をしたいという妄想は、誰もがすこしはするはずだ。最近続編が公開された『キック・アス』の発端には主人公のそうしたコンプレックスがあるし、花沢健吾の一連の作品に通底するのはそうしたコンプレックスだ。『ボーイズ・オン・ザ・ラン』1巻で、電車内のDQNに蹴りをかますシーンは、まさにウォルターだ。


理想と現実のギャップを妄想で架橋してきた彼だが、ついに自らの足で、そのギャップを埋め合わせる時がくる。
極寒の海でサメに食われかければ、火山への道をスケボーで疾走する。道なき道を行くその原動力になるのは、カリスマへの憧れであり、意中の女性への想いだったりする。それに関して、男はいくつになっても変わらない。

ウォルター演じる監督ベン・スティーラーが当初、小市民的たたずまいなのに、冒険を続ける内に徐々に言動に落ち着きがでて、ワイルドになっていく様は見物。ショーンを演じたショーン・ペン(ややこしい)も雰囲気があって、「この人がカリスマ性をもっていないとこの映画全体がなりたたない」という無理難題な役なのだが、完璧に演じきっている。本当に芸達者だ。


会社を買収する側の「ヒゲ男」一派は明確な敵役として立ちふさがるけれど、基本的にウォルターの周りの人間は最初から彼に優しい。結局彼をいままで「日常」に束縛していた物がなんなのかは、よくわからない。
ただ、それでもぼくがこの映画がたまらなく好きな理由は、やはりオチの部分である。オチの部分で素直に「えええ話やああああああ」となるか、「ベタすぎるだろ」と鼻白むかで、この映画の鑑賞体験は大きく変わる。
できすぎたラストは、これも「妄想では?もしかして、全部そうなの!?」という疑いを持たせる。果たしてウォルターの歩んだ旅は、本物なのか妄想なのか、まずは映画を存分に楽しんでからでも遅くはないだろう。