本書は、70年代から80年代にかけて伝説的なコラム「THE 歌謡曲」を連載していたミュージシャンにして音楽批評家の近田春夫が、その真骨頂である歌謡曲批評にしばらくぶりに帰ってきた一作。週刊文春誌上で97年のヒットチャートから毎週2枚をピックアップし、批評した連載がもとになっている。
- 作者: 近田春夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2000/12
- メディア: 文庫
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オススメは、順番にこだわらずペラペラめくりながら気にとまったページから読むやり方だ。それはJ-POPが非歴史的であるからでもあるが、それ以上に近田の文章が時代の文脈から独立して面白いから、これにつきる。場合によれば、作品に勝ってすらいることがある。
近田の批評の魅力はなんといっても、歌謡曲批評でありながら、楽曲や歌詞の枠にとらわれず、ジャケット批評や芸能人批評まで射程に入れているということだ。もちろん楽曲批評の濃度も高いのだが、「その他」の枠が広すぎる。猿岩石有吉のジャケットの眉毛がカールしていることも、桜井和寿が不倫スキャンダルの際に報道各社に謝罪文を送ったまめさも、それらすべてを集約して初めて「J-POP」なのだというのが、彼の理解なのだろう。
難解な言葉遣いは皆無で、その上、ウダウダ書き連ねているようでいて突如として対象の本質に貫く切れ味のよさがある。なおかつ、読みながら思わず笑ってしまうようなキラーフレーズがあるからたまらない。「THE 虎舞竜に関しては、私はロード的存在であることしか知らぬ」これ以上に端的に高橋ジョージを評した言葉が、他にあるだろうか?
このよい力の抜け方は、もしかすると対象曲を別の人に選んでもらっているからかもしれない。自分で選んないからこそ、肩に変な力が入っていない可能性がある。もうJ-POPは聴く時代から読む時代に移ったのかもしれない。文庫版の解説は、自身も近田の影響を受けたという評論家の宮崎哲弥が寄せている。