いいんちょさんのありゃあブログ

85年生まれ、おうし座。今考えてることと、好きなこと、嫌いなことについて

【映画評】戦争をめぐる皮肉めいた寓話「ロープ/戦場の生命線」

ベニチオ・デル・トロティム・ロビンスらが出演する「ロープ/戦場の生命線」は、ドライなユーモアにあふれる反戦映画です。

舞台は95年のバルカン半島のある国。国連の管理下において紛争はかろうじて停戦中ですが、まだ周囲には地雷が埋まっている予断を許さない状況です。マンブルゥ(デル・トロ)とビー(ロビンス)ら「国境なき水の衛生管理団」は、ある村の井戸に投げ捨てられた男の遺体の回収にあたります。しかし遺体を引き上げるのに必要なロープがない。やむを得ずいったん井戸を後にし、一同はロープを探すことになるのですが…。

明言はしていないものの映画が題材にしているのは、ユーゴスラヴィア戦争という現実です。したがって極めて具体的、政治的な映画のはずですが、一方で内容はとても寓話的で、おとぎ話のような感触なのがおもしろい。「ロープ」は様々なものに置き換えられる象徴であるように思えます。

マンブルゥらは手分けしてロープを探しますが、なかなか見つからない。いえ、正しくはロープは見つかっても様々な事情でそれが使えないのです。ある者はビーがよそ者だからという理由で売ってくれない。ある者は国旗を掲揚するロープを貸してほしいと頼んでも、一度旗を降ろしたら「降伏」したと勘違いされるからと言って貸してくれない。そして、頼りのはずの国連は殺人的に無能です。すぐそこにロープがなくて困っている人がいるのに。ロープ一本があれば解決するのにそれができない。

デル・トロとロビンスのふたりが醸す、戦場に何年もいたために悟り切っちゃった感がたまりません。無慈悲な民族紛争を題材にした映画ですが、ふたりの存在が映画そのものの質感を柔らかくコーティングしているところがある。マルブルゥが劇中でこぼす「何を言っても変わらないものは変わらない」という言葉。一見それはネガティブな思想にみえますが、上手くいくことの少ないような彼の仕事では、上手くいかなくても淡々と次の作業に移るために必要な思想なのかもしれません。

なお、原題は「A Perfect Day」。上手くいかないことだらけの状況に対して、ある登場人物がこぼす皮肉です(ちなみに歌手のルー・リードは「Perfect Day」において、恋人と動物園に行ったり映画を観たりするありふれた日常の尊さを歌っています。映画の中の人物たちにはそんな日常がまさに、得難い「パーフェクト」な日常なのでしょう)。

最後にかかる「Where Have All The Flowers Gone?(花はどこへ行った?)」とともに、敵味方の別なく誰のもとにも降りそそぐ雨は、もうすべてノーサイドにしようよという呼びかけのようにも感じられました。